いろはにほへと
母の匂いと温もりを感じながら。
色々あった一年だったからこそ、親孝行出来ただろうかと少し思う。
「ありがとうございました…」
二人にお礼をと思い、そう言うと、僅かに母の目が涙で濡れた気がする。
「さぁ!そうとなったら、今夜はごちそうね!!!買い物に行かなくっちゃ!」
しんみりとした空気を払拭するかのように、母は突然私から離れ、思いついたとでもいうようにパン、と手を叩いた。
ルンルン、と鼻歌でも歌いだしそうな程のテンションで、母は階段を降りていく。
残った父と目が合い、少し照れる自分が居る。
「良かったですね。」
にこりと笑う父に、私も笑って頷いた。ここ最近ない程、嬉しかった。
「お友達も、心配しているでしょうから、ちゃんと連絡してあげなさい。」
「あ、そうでしたね…!」
父には、桂馬のことも、話してある。
私が大変な時、桂馬がどれだけ支えてくれたのかも、知っている。
澤田も桂馬も、志望大学を合格していて、ここ数日は私の心配ばかりしていた。
「ひなのさん…僕が、、、少し前に言ったこと、覚えていますか?」
「ーえ?」
言われた通り、直ぐに連絡しようと部屋に戻りかけた所で、躊躇いがちに問い掛けられ、何の事かと首を傾げて、父を振り返る。
父は、悩むような、難しい表情を浮かべていた。