いろはにほへと

ドクドク、と心臓が鳴るから、一度出した指先も震える。

受け取るべきなのか、一瞬迷い、反射的に手を引っ込めて、問うように父を見た。
父はもう迷うような表情はしていなくて、ただ、静かに封筒を見つめていた。

ごく、と唾を呑み込む音が聞こえる程、静かな廊下にー


「お父さんー?!買い物一緒に付き合ってー!!!」


母の、明るい声が下から響いた。


「分かりました、今行きます」


父は変わらぬトーンで返事をして、私を見る。
それが合図だったかのように、私は、その封筒を受け取った。


「では、お母さんに呼ばれていますから、行ってきますね。ひなのさん、今夜は楽しみにしていてください。」


にこりと笑った父は、そう言うと、私に背を向けて、階段を下りていった。


ー合格発表より緊張します…

私は1人、残されて、鳴り止まない心臓の音をBGMに、封筒と睨めっこする。
思ったより薄い封筒に、何が入っているのか分からずに、不安と期待が募る。


ー今更、なんなんでしょう。

受験の日に、すれ違った思い出すらも、昨日のことのように感じる。

あの時、自分は確かに、あそこでトモハルとさよならをしたのだ。決別したのだ。

触れた小指が、今尚、ジリジリと熱くても。


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