いろはにほへと
ー歌えるように…なったんですね…
さっき閉まった涙は、直ぐにまたじわじわと湧いてくる。
先日聞いた懐かしい声。
元気な声とまではいかなかったけれど、歌をもう一度歌うことが出来るんだという実感は湧かなかった。いつ、復帰できるのか、知らなかった。
だけど、7月には。
夏頃までには、コンサートが出来ると見込める位にはなったということだ。
「よか…た」
安堵の声と共に、むくむく生まれてきたのは、行っていいのか、という思い。
ずるずる、とその場に座り込む。
どうして、トモハルは私を呼んだんだろう。
同じ場所に、トモハルといてはいけないのではないだろうか。
また、騒ぎになったら、今度こそ取り返しはつかない。
言い訳もできない。
無意識に落ちた分厚い溜め息と共に、チケットを持つ手を膝まで下げる。
と、同時に、スマホが軽快な音楽を奏で始めた。