いろはにほへと
軽快な音楽といっても、今流行りの曲とかではなくて、着信音設定の中に選べるクラシックなのだけれど、先日やっとセットできたもの。


「はいはいはい…」

焦って、どうしてかチケットをラグの下に隠して、ベッドの上のスマホの画面をスライドする。

近代発明の一連の動作に慣れ始めた自分に、感動すら覚えるこの頃。



「はい!」


相手を確認せずに出た私は、とりあえず元気な返事をしてみせた。


《…元気そうじゃねぇか。》


そして、ギクリとした。

どうしてか、ぎくりとした。

それがどうしてなのかは、知っている。

半分は、心配してくれていた桂馬に、早く連絡しなかったから。
そしてもう半分は、さっきまで手にしていた、チケットのことで、後ろめたい気がしてしまったから。


《っていうことはーー》

「受かりました!!!」


言われる前に、一応報告。


《…………》
「桂馬くん??」

急に無言になった相手に、不安になり、名前を呼ぶ。
直ぐにはぁーーー、という大きな溜め息が聞こえる。


《よかった…!》

桂馬が、どれだけ心配してくれたのかが、隠してたって、窺い知れてしまった事に、胸が痛む。


「すみません。ずっと、見る勇気が出なくて、さきほどやっと確認したので、ご報告が遅くなってしまって…」

電話口なのにペコペコと頭を下げる私。

《そうだろうと思ってたけど、そうじゃなかったらどうしようかとヒヤヒヤしてたから…マジで良かった。確認しねぇと、仕事が手につかなくて…》

ふー、と息をもう一度吐いて。


《おめでとう》


桂馬は、私にお祝いの言葉をくれた。

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