いろはにほへと
「恋!」
「は…?」
「俺を見つめていたら、胸が痛くなったの?!そうなの?!」
「あ、いえ…」
「そう!その胸の痛みこそ、恋!!!いやーわかってくれて嬉しいよ!俺はちゃーんと恋ってやつを教えられたんだなー!!」
「ち、ちが…」
私の話を全く聞かないトモハルは、空いてる手で私の肩を感慨深げに叩く。
―そうだ。
トモハルのこの猪のごとく突っ走る精神力。
この男相手に何をそんな頭を悩ませていたんだろう。
こんな馬鹿げた相手に。
そう思ったら、やけに冷静になった。
「…今日、夕方青柳さんの御宅にお米を取りに伺うんですけど、ついでにイナゴの佃煮もいただいてきますね」
「!!!!」
ボソっと呟くと、トモハルが驚愕の表情を浮かべた。
「ご、ごめん!嘘!冗談!ウケ狙い!胸痛いの大丈夫?!」
こんなどこまで本気かわからない相手に、8割、いや9割冗談でできているような男相手に頭を悩ませるなんて、馬鹿馬鹿しい。
頬にキスなんて。
海外じゃ立派な挨拶だ。