いろはにほへと
真剣な眼差しは、一瞬にして笑顔に変わる。
「どんなに難しく考えたって、どうせうまく出来っこないよ。誰でもみんなそう。でもそれでいんじゃない?ぶつかっていけば。」
私が表情に覗かせた不安を、笑い飛ばすように、澤田が言って、さて終わりだと、私に布巾を渡した。
「そろそろ良い時間だし、帰ろうかなー。あ、やっぱり泊まってこうかなぁ。」
私が何か言う前に、澤田はそうやってぼやく。
「あら!!ぜひそうしてちょうだい!楽しそう!ガールズトーク、女子会!!お母さんも入っちゃおう!」
こういう事に関しては地獄耳の母がノリノリで返事をしたから、澤田がびくっと肩を震わせる。
「あ、いえ、冗談です、冗談。桂馬くんも居ますし、私お邪魔ですから、、、」
「えぇー、、そんなこと言わないで!ぜひ!泊まっていって!ね?!」
強引な母にたじたじの澤田が面白く、ふふと笑って見ていると、父と話していた桂馬と目が合った。
途端にドキドキと、後ろめたさが蘇ってきて、目を逸らしてしまい、直ぐに後悔する。
「…俺もそろそろ失礼します。」
一拍置いてから、桂馬がそう言い、母がえぇーと落胆した。
「桂馬くんも泊まっていったらいいじゃない!!もうこんな時間だし!」
「ありがたいですけど、明日も朝から仕事があるんで、、すみません。」
「ここから行けばいいじゃない!」
「お母さん、無理言わないであげて下さい。阿立君が困っていますよ。」
「えぇーーー」
「すみません。」
ぺこ、頭を下げる桂馬に、私も駆け寄り。
「本当にありがとう」
感謝すると、桂馬は小さく頷いて見せた。