いろはにほへと
玄関先まで送ると言って出た外は予想より寒く、肩を震わせる。
「星が綺麗です。」
空気が澄んでいるから、夜空は美しく、吐く息は白い。
少し緊張しつつ、桂馬の背中を見上げると、いつの間にか振り返っていた彼と目が合った。
「今度は、逸らさないのな。」
クス、と笑う桂馬に、ドキっとした。
やっぱり、気付いていたのか、と。
あれだけ露骨に目を逸らせば、気付くのは当たり前なのに、どうか気付かないでいてくれと願っていた自分がいた。
「今日は…色々、ごめんなさい。」
桂馬を誘ったけれど、無計画な上、やましい所がある私は、桂馬を避けてしまいがちになり、ほとんど会話らしい会話ができなかった。
「ひなの両親に会えて、嬉しかったよ。それは、本当。」
それなのに、桂馬は、そうやって、私のできなかった部分ではなくて、良かった部分を掬い上げてくれる。
だからー。
「けど……ひなに何かあったのに、何も言われないまま…何もわからないまま、俺は帰らなきゃいけないのかな?」
「!」
そんな桂馬に甘えてばっかりで、それが、傷付けてるということに、繋がっているって、気づかなかった。
相手への優しさに甘えてばかりいるのと、負担をかけて傷付けることは、イコールで結ばれるって、数学の方程式には出てこないから。
『でも、それがーその優しさがーかえって傷を深くしている事もあるんだよ。』
澤田が言った通り。
傷付けることが怖くて、傷付く事を恐れて。
結局は、傷口を深くした。