いろはにほへと
特に桂馬は、こういうことにー私の変化に、敏感だった。
私はいつも、気持ちを上手に隠すことができなくて、下手なのに隠そうとして見つかって。


『嫉妬でどうにかなりそうな俺の、どこが大人なんだ。』


桂馬の切なく苦しそうな表情が、以前と重なる。


桂馬は強く見えるから。
私は、桂馬がいつも何を考えて、何を思って、何を不安に感じているのか、分からない。



「…今日ーーーールーチェの……チケットが、届きました…」



喉がカラカラになって、手先が冷えている。
囁くようで、掠れている声なのに、澄み切った空気には、はっきりと響いた。


トモハルから、とは言えなかった。
その名前は、桂馬の前で、禁句なようにも思えたし、自分のかけていた鍵が、それで開いてしまうような気もした。



言ってしまった後の沈黙は。

痺れるほど、長く感じた。

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