いろはにほへと

合わせていた視線を、今度は私から逸らした。
逸らさないと、言葉が出てこない。



「ー分かりません。」


玄関傍に植わる椿の葉が、道路の街灯に照らされて、光る。


「分からないって…また嫌な思いするのかもしれないし、また知らないって言われたらどうする?そもそも今までだってルーチェもDYLKも無責任過ぎる。なのに、会いに行くって?何を期待していくんだよ?」


桂馬のトーンに起伏はないが、言葉には十分苛立ちが含まれていた。


「…私…ずっと言い聞かせてきたんです……カフェで会ってしまった時から、もう決別するって。」


いつか、また笑って話せるようになるまで、忘れないけれど、思い出そうと極力しないで、トモハルのことを考えずに乗り越える。

それから、桂馬の気持ちに応えたい。

初恋を忘れさせてくれると言った桂馬の事を好きになる。




そう思っていたのに。







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