いろはにほへと



「…ひなは、、、、それでいいの…?」

桂馬の問いに、顔を見ることなく、頷く。

「ひなは、、、忘れたかったんじゃなかったの…?」

ひたすら、頷く。

恋を知らない私は、浅はかにも、トモハルへの想いを忘れたくて、桂馬に忘れる方法を訊ねた。

それは荒療治になると、桂馬は言ったけど、桂馬はどこまでも優しかった。
待っててくれた。
そして、好きだと、言ってくれた。

自分は、こんなに優しいこの人を、利用して、傷付けて、振り回した。


「忘れたかった、、、ですけど…」

嗚咽交じりの言葉が、桂馬にきちんと伝わっているかは分からないけど。


「け、桂馬くんと、、ならっ…それができるとお、思ったんです…けど…」


本当なら、まだ、もう少し、一緒に居たかったし、過ごしたかった。
でも、それは、単なる甘えでしかない。
桂馬を傷つける期間が、伸びるだけだ。


「行って、待ち受けているのが、バッドエンドだったらどうするんだよ?ひなはっ…」


桂馬の苦し気な問い掛けと同時に、ぐいと身体を引かれて、抱き締められる。
寒いのに、そこだけ温かく、それが無性に辛い。



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