いろはにほへと

言葉がもたらしたヒヤリとした冷たさは、木枯らしのように、自分の内を吹き抜けて行く。


「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」


何度謝っても、心が軽くなる訳じゃない。
それどころか、重さが増していく。
だけど、謝らずには居られなかった。

今朝起きて、合格発表を見る事でいっぱいだった自分に、教えてあげられるものなら教えてあげたい。

もっとすごい決断と決定をしなくてはいけなくなるんだと。

考えてもいなかった。
予想もしていなかった。

だけど、前から考えていたみたいに、言葉がすんなりと出てきたのは、気持ちがしっかりと固まっていたのは。


澤田が言ったみたいに、どこかで、気付いていたからなんだと思う。

どんなに物分かりの良いフリをしても。
絶対に、それ以外はないという答えがあること。



「……………」


もう一度私に触れようとした腕を、諦めたように下げて、無言で帰って行く桂馬の背中を見ながら。


もっと早く、こうすれば良かった、と思った。


桂馬に、じゃない。


それよりもずっと前に。

もっと早くに、伝えるべきだった。

言うべきだった。

二人きり、手を繋いで歩いた、あの道の途中で。

十も上だから、相手になんてされる訳ないと諦めたり、自分の想いに逆らったりしないで。


ただ、好きなんです、と。

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