いろはにほへと

翌朝は、新しいブランドの専属モデルとして、記者会見があった。



「桂馬?昨日ちゃんと寝た?」
「んー、ちょっと…」
「ダメじゃない。化粧ノリ悪くなっちゃう。元が良いのと若さで、今はなんとかなってるけど、その内後悔するわよー」

メイクさんからの駄目出しに、頷く気も失せる。

ー人の気も知らないで。

溜め息を吐きたくなるけど、そうすれば、また昨晩の自分を思い出す材料になるだけだから、思い留まる。


ーひなの両親は、良い人だったな。


結局回想してしまう自分に呆れながら、ひなの父親との会話を反芻する。



『阿立君、ひなのが、随分とご迷惑をお掛けしているようですね。』


ひなと澤田がキッチンに立った所で、俺の隣に来てそう言った。

ひなと同じ、丁寧な言葉遣い。
少し微笑むと、貴重なひなの笑顔と重なる。


『いいえ、そんなことは…』

首を振って否定すると、父親はありがとうと言った。


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