いろはにほへと
『俺は、もっと…頼ってほしいくらいなんです。』
楽しそうに話すひなに目をやって、思わず零れた本音に、父親は苦笑する。
『ひなのは、不器用な子ですから、人付き合いが苦手で、言いたい事を中々言えない、聞きたい事を聞けないーむしろ、理由をどこからか探してきて、自分を納得させてしまうきらいがあるんです。それが、阿立君を困らせているのでしょうね。』
『いや……俺が、もっと頼れる人間になれば良いんだと思います。』
自分に言い聞かせるように言うと、父親は僅かに眉を上げた。
『どちらかが無理をしなければいけない関係は、実際はどちらも無理をしている関係になってしまいますよ。』
そう言われて、図星だと思った俺は、一瞬反応に遅れた。
『とは言っても、無理をしないといけない状況も、ありますけどね。』
フォローしてくれたのかもしれない。
それから父親は、話を変えた。
けど、全部お見通だったんだろうと思う。
ーそうなんだよ。
「桂馬くん、リラックスして!」
今度は、スタイリストに髪をいじられながら、眉間に皺が寄って、注意されながらも、苦悩する表情が和らぐはずもない。
ー無理をしてでも、手に入れたかったんだ。