いろはにほへと
気分とは裏腹に、淡々と仕事をこなしている自分。
本当であれば、誰も知らない外国で、静かに海でも見ていたい気分だ。
「そろそろ時間ですので、最後の質問にしたいと思います。」
関係者によって、声が掛かると、一斉にマスコミが手を挙げる。
ーこれでやっと終わりか。
次にも直ぐ他の撮影の仕事が入っているが、二時間は空きそうだ。
その間に、体制を立て直そう。
「あ、じゃあ、そちらの方」
ショートの女がおずおずと立ち上がって、俺を見た。
「キヨミテレビの松原と言います。」
見た目通りの、ハスキーボイス。
「コンセプトが、ブランド名にちなんで、『世界がなくなる前に、最高のお洒落を楽しもう』という事ですが、もしも明日世界がなくなるとしたら、阿立さんは何をしたいですか?」