いろはにほへと
好きなんだ



耳を塞ぎたくなる程の蝉時雨は、都会では聞いたことがない。

毎年行っていた姫子さんの家には、勿論今年も行こうとしている。

けれど、大学の休みが始まるのは、高校の時より少し遅い。
そして、今年は、その前に、自分の人生最大とも言える予定が入っている。

大学は家から通っているが、まだまだ新しい環境には慣れない。
澤田と狭い教室で過ごした日々が懐かしいし、寂しいと感じる。


それでも、それぞれが自分の目的の為にーそれが実りあるものでもそうでないものでもー生活しているから、一人でいることがさほど苦ではない。

髪は少し伸びた。
月一で会っている澤田に、何故か必ず例の美容院に連れて行かれるので、以前の髪型には、なりたくても戻ることができない。完全に阻止されている気がしてならないこの頃。



「はぁ…」


金色のチケットに書かれた場所は、私とは縁のない場所で、何があるのかすら見当もつかない。澤田が調べて印刷してくれた地図と、私はさっきから睨めっこしている。

こんなことがなければ、恐らく一生行かなかっただろう。

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