いろはにほへと


確実に上がっていく心拍数に、過呼吸になってしまいそうになりながら、中に入ると、その不安は更に募る。

座席の数、人の数。




ーこんなに…沢山の人が…集まるんですね…


わかってるつもりだった。



初めて、トモハルが、ルーチェのハルで、歌手だということを知った時。


『知らない??!!いまや国民の顔と言ってもおかしくないほどの、ルーチェを???』


早川は、私にそう言った。

あれから、もうすぐ、2年経つ。

一緒に仕事させてもらったり、桂馬と関わったり、雑誌なんかで取り上げられて、クラスメイトから敵視されて。


わかってたつもりだった。


ルーチェが、どれ程、人気なのか。

だけど、こんなに大勢の生身の人間を前にして、自分は何も分かっていなかったのだと思い知らされる。


自分の手が、届く人じゃないという事実がー

もうこれまでだって何度も何度も突き付けられてきた真実が、更に避けられない刃となって、私の前に立ちはだかる。


出逢えたことが、奇跡だったんだ、と。

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