いろはにほへと
緊張と、自分のちっぽけさと無力さ、存在感の無さ。

震え。

冷えていく、手先。



「…っ」
「うわ」


居堪れなくなって、踵を返すと後ろの人にぶつかってしまう。
逆走なんて、迷惑千万なことは百も承知だが、足は勝手に動く。


「すいませんっ!」


ー逃げないって決めたのに。


開演まであと数十分という所で、自分の予想と現実の狭間に苦しむ。


コンサートツアーっていうのがどういうものか知らなかった。
だからこんな人が沢山いる所とかわからなかった。


期待してたのは、トモハルともしかしたら話せるかとか。
それなら伝えることだけ伝えたいとか。
そんな浅はかなこと。

いつもそうだ。

自分は浅はか過ぎて、大人なトモハルや桂馬と違い過ぎる。


追いつけない。
こんなんじゃ、あの人に届かない。

あんな沢山の人混みに紛れたら尚の事、トモハルはこんな自分にはきっと気付かない。

きっと、見つけてくれない。

< 626 / 647 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop