いろはにほへと
きっぱりと断言する男性を前に、スタッフにここまで言わせるルーチェは、やっぱり凄いんだ、と思った。
『花は咲くけどー直ぐに散っちゃうから、哀しいよね。』
『一瞬で、終わっちゃうでしょ。次にいつ咲くかもわからない。だけど咲くもんだと勘違いしてる人もいて。それで咲かないまま終わっちゃえば、もう見向きもされなくなる。』
『何も知らない、ひなのの傍にいるのが、楽だった。』
『去年の夏ー俺は曲を書けなくなってた。正直、歌うことも辛くてー』
『作り出すことも、苦しくて。』
私も、それを知ってる。
あの人が、命を削るようにして、造り出しているということ。
だから、ルーチェの音楽は、こんなに沢山の人達に、聴いてもらえるんだ。
狂い咲きの、藤の花みたいに、綺麗で、繊細で、人の心を動かせるんだ。
「……ありがとうございます。おかげで、思い出しました。」
「え?」
不思議そうに、眉を上げた男性に、ぺこと頭を下げて。
「いってきます。」
私は、もう一度、チケットを握りしめ、会場に向かって歩き出す。
ルーチェのー
トモハルの歌を、直に聴くのは、そういえば、初めてなのだ、と、思いつつ。