いろはにほへと
トモハルの視線は真っ直ぐ会場全てに向けられている。
真剣だということは、一目瞭然で、トモハルが次に発する言葉を、皆が固唾を飲んで見守っていた。
《皆も知っているかもしれないけど、ルーチェは元々高校の同級生で結成したバンドで、文化祭の時に発表した一曲が、始まりだった。》
澤田とルーチェ繋がりで、仲良くなり始めた頃、教えてくれた、ルーチェの始まり。
高校の文化祭で一躍人気者になった彼等のチケットは、他校でも飛ぶように売れるようになり、ライブハウスは超満員。
順風満帆な道のりだった。
だが一時期、トモハルがスランプに陥り、曲を書けなくなる。
トモハル以外のメンバーも、曲作りができない訳ではないが、思うような結果が残せない。
《スランプになった原因は色々な説が流れてるけど…一番は、たぶん、無理矢理作ろうとしたこと。そのせいで、ルーチェはルーチェの色を失った。》
《あの時は、ボロッボロだったよな》
宗司が相槌を入れる。
《そうーーーそれで、曲作りを辞めようとして、ギターにも触れず、生活の中から音楽という音楽を一切断ち切った。そしたら、勝手に音の方から会いに来たんだ。何にもない所から、いきなりメロディーが流れてきて、、、直ぐに詞(ことば)が浮かんで…『俺、やっぱり歌が好きなんだ』って思ったら、また向き合うことができた。で、本腰入れて取り組んで、今ここに居る訳だけど。》
トモハルがそう言うと、拍手が起こる。
トモハルはそれを苦笑しながら受け入れて。
《音楽は聴いてもらえて初めて存在意義がある。ルーチェがここに居るのは、聴いてくれる皆が居るから。本当に感謝してる》
一瞬頭を下げると、拍手が更に大きくなった。