いろはにほへと
《…だからこそ、そんな皆の為に、ルーチェらしい唄を歌い続けたいと願うと、決められた枠組みでは、それが不可能だってことに気付いた。贅沢かもしんないけど、俺は、作りたいものを作りたいし、歌いたい唄を歌いたい。好きなものを好きと言って、嫌いなものを嫌いと言いたい。それにー》


そこまでで一旦言葉を切ったトモハルは、視線を落とす。


「!!」


再び、私と視線が絡み合っているように思う。


ー勘違いだって!


気付いてもらえてないと、萎んだ気持ちと共に鳴り止んだ心臓が、また暴れ出す。


目と目を繋がれたまま。




《本当に好きな人に、好きだって伝えたい。》




トモハルの言葉に、心も繋がれる。




「…今、何て言った?」
「え?」
「好きな人?」




騒つく会場とは正反対に、私は思考回路がショートしたように、固まった。
トモハルから、目を逸らすことが出来ない。



勘違いでもいい、と思った。


こんなに近くで、まるでトモハルが、私を好きだと言ってくれているみたいな錯覚。

好きな人に、好きだと言ってもらえる事が、こんなに幸せだと感じるものだなんて、初めて知った。


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