いろはにほへと
トモハルの視線がふ、と離れ、途端に魔法が解けたみたいに、当たっていた光が陰ってしまったように寂しく感じる。
《人って皆、そういうの、少なからずあると思うんだよね。誰かの事をすごく好きなのに、素直になれずに言えないままだったり、その人は他の人のことを好きなのを知ってるから、応援してるフリして言えなかったり、言ったら今の関係が崩れてしまうのが嫌で言わなかったり、あるいは、自分に自信がなかったり、大事なものの為に犠牲にしてしまったり。そんな葛藤を、誰しも持ってると思うんだ。》
トモハルの続く話に、口々に同調する声が聞こえる。
自分も多分に漏れず。
ーそういう、気持ちばっかりです。
幼い頃はもっと素直に言えた事が、今は中々言えない時がある。
特に今回は、痛い程経験しまくりだ。
《大切な人に程、伝えなくちゃいけなくて、伝えたい想いもあるのに、大人になる程、色んなしがらみが増えていって、今迄簡単に言えてた事が出来なくなってく。》
言いながら、トモハルは一度振り返って、メンバーにアイコンタクトを送ったような素振りを見せた。
《今から歌う唄は、そんな人達全てに贈る唄。》
再び客席に向き直ったトモハルの言葉に、観客は大興奮。
新曲だ!!!の声があちこちから上がった。