いろはにほへと
怖い


そう思って声を上げそうになったけど。


繋いだ手の、感触と。
走ることで出来る風が運んでくる香りが。

私に訴える。


このひとを待ち侘びてたでしょう、と訴える。




ート、モハル…???

まさか。

いるはずがない。

こんな、私と一緒に走っている場合じゃない。

けど、確実に、細胞が覚えているその人は、私をいつかみたいに引っ張って。

どうやらステージの方へと向かい、どこかへと誘(いざな)う。

見えない私には恐怖でしかないけど、引っ張っていっている相手は、スイスイと慣れた動作で私を連れて行きーーー


「やっと会えた…」


そう言って振り返った瞬間、強く抱き締めた。

薄暗い箱の中のような場所で、足元を照らすライトがある。

ここは、上から、音楽が聴こえてくる場所。

つまり、ステージの真下にいるらしかった。


「な、な、な…」
「ごめん、ひなの。」



ほんの数秒の抱擁の後、肩を優しく押され、お互いの目が合った。

至近距離になって、青白い光の中漸く朧げに見えるトモハル。



間違いなく、トモハル。


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