いろはにほへと
「来てくれて…良かっ…た」
びっくりし過ぎて、涙も止まったり、流れたり、感情をどう表し、処理すれば良いのかよく分からないまま、トモハルを無言で見つめるしかなかった。
「色々傷つけてごめん。言わなきゃいけない事や説明しなくちゃいけないことはいっぱいあると思うんだけど、全部後回しにして、これだけ言わせて。俺ー」
再び、引き寄せられ、優しく包み込むように抱き締められる。
「俺、あの夏からずっと、ひなののことが好きなんだ。」
ー夢を、見てるのでしょうか…
勘違いでもいい、なんて思った少し前の自分に馬鹿と言ってやりたい。
好きと言われたような感覚に陥って、それだけで幸せだと思った私は、どれほど世間知らずだったんだろう。
全然違う。
自分がどれほどこの言葉をこの人から言ってもらいたかったか。
手を引かれ、名前を呼ばれ、好きだと伝えてもらうことは、今までのどんな何よりも、心臓が鷲掴みにされ、捕らえられて、息の仕方さえ忘れてしまう。
貪欲だと言われようと、我が儘だと言われようと、この人以外の好きは要らない。
「すごい傷付けたし、もう、遅いのかもしれないけど、、、好きで好きで仕方ないんだ…」
今迄とは違う意味で転がり落ちる私の涙を、指先で掬ったトモハルに、今度は自分からしがみついた。
涙のせいで、声が上手く出せない私は、伝わるように何度も頷く。
「駄目だって言われても、ひなのじゃないと俺が…駄目なんだ…」