いろはにほへと
直ぐにトモハルの声が聴こえる。
私は真下で聴くけど、頭に入ってくるわけない。
歌詞の意味なんて吹っ飛んだ。
真っ赤になった顔を両手で包んで、床に突っ伏す。
「ずるい…」
きっと、私がああ言うのを、分かっていたんだろう。
そうじゃないと、離れ難くなっただろうから。
ー前言撤回。
やっぱりトモハルは大人だ。
私が思う通りに動くと、それは結局トモハルの睨んだ通りの結果になってしまう。
転がしているようで、転がされている。
トモハルの計画通りに進んでしまっている。
それはいつも破茶滅茶で、振り回されているように感じるけれど。
こんな人と一緒にいて、心臓が幾つあったら足りるんだろうと計算してみる。
1ヶ月毎にひやひやさせられるとして一年に12個必要。
いや、それじゃきっと足りない。一週間に1個として、1ヶ月4個として、一年に48個。
「無理かもしれません…」
思わず呟いた。
それでもー傍にいたい。
二年前の夏、こんな風に自分がなるなんて、思いもしなかった。
『俺が教えてあげる』
トモハルが教えてくれた恋。
今私は、一度きりの恋だけど、一生分の恋をしている。