いろはにほへと
私に恋を教えるといいながら。



トモハルはやっぱり、そんなの全然本気じゃなくて。




根暗な自分の反応が普通じゃないから、面白半分であんなこと言い出したんだろう。







「だったら、、、あの人の所に行けば良いじゃないですか。」






じゃあ、なんで、この家に来たの。



どうして、こんな所に逃げてきたの。



なんで、今も、居るの。






「ひなの?」





トモハルが驚いたように私の名前を呼ぶ。







玄関口で突っ立ったままの彼と、もう視線を合わすことはしない。




そんなもの、最初から、合ってなかったけれど。








だって、私は、ひとりで静かにここで夏休みを過ごしたかったんだから。



トモハルがいるせいで、藤のことすら忘れてしまっている。




それがこんなに癪に障るんだ。



きっと、そうだ。






「…わざわざ、ここに隠れてる必要ないじゃないですか。私もこの家も、貴方と関係ないんですから、巻き込まないで下さい。」






言い捨てて、身体の向きを変えた。




この場にこれ以上留まりたくなかった。




何故だかとても惨めな気がした。





―姫子さんの書斎に行こう。そこで独りになって、落ち着こう。

そう、考えて、書斎の方角へ足を向けた矢先。






「―もしかして…ヤキモチ?」




トモハルが私の背中に問う。




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