いろはにほへと
その途端、顔にカッと血が上った。





「自惚れないでくださいっ!!!!」





トモハルを振り返ることなく叫んで走った。







ヤキモチ、なんて。



そんなこと。


あるわけ、ない。




誰かに妬いたことなんて、ない。






違う。



絶対に、違う。





何度も何度も繰り返し、心の中で自分に言い聞かせた。





心が、こんなに落ち着かないのが、すごく嫌だった。







トモハルに宛がった離れのある方角に行くと、姫子さんの書斎が見えてくる。




中にあった本は、もうほとんどなく、残っている物は先日天日干ししたばかりだった。







ドアを開け、電気のスイッチを入れれば、白熱灯の光が部屋を照らしだす。




屋敷の中の数少ない洋間からは、少し古い香水の匂いがする。




空に近い本棚と、臙脂色の絨毯。



濃緑のベルベットの回転椅子が存在感を放ち、その前には大きなアンティークの机があった。





広い家の中でも、この部屋は別格で、幼い頃は入ることを許されなかった。


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