いろはにほへと
反射的に立ち上がって、門の方に目をやった。




≪では、おまちかね!好きなだけ、聴いちゃって下さい!ルーチェの『泣き空』!≫





もう大分耳に慣れた、イントロが流れ出す。




「ごめんください!」




「あのっ…」




どこかで聞いた覚えがある声に、隠れるよう促す為、咄嗟にトモハルを振り返ると。





トモハルは全く動じず、ゆっくりとした所作でお茶を飲んでいた。





「こないだ来た子居たじゃん。時間の問題だなーとは思ってたから。」





余裕のある笑みで、トモハルは呟く。





「そうだ。言い忘れてたけど、あの子、別に彼女じゃないからね。」





上目遣いに私を見て、いたずらっぽく付け足した。





「入りますよー!!失礼します!」





鍵が掛かっていなかった戸は、カラカラと音を立てて開いた。





「!!!ハル!!!!!全くお前っていうやつは!!!」




入った途端に、庭に居たトモハルは直ぐに男の目に留まる。




半袖のワイシャツにノーネクタイの男の人は、想像していたよりもずっと若かった。



そして、汗をかいてふうふう言っていた。


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