いろはにほへと
「知らない??!!いまや国民の顔と言ってもおかしくないほどの、ルーチェを???信じられない!!!!」
「いや、それおかしいでしょ。」
「いいや!おかしくない!!例えば今流れているこの曲ですけれど!これもルーチェですから!こいつ、歌ってますから!!コンビニ行って雑誌とかも見てください!こいつ、表紙飾ってますから!テレビとか見てください!こいつ、下向いてますけど!」
白熱する男を前にして、私はただ呆けていた。
「とにかく!今は時間がないので!ハルに掛かった料金は後日手配致しますので、今日はこれで失礼させて頂きます。重ね重ね申し訳ございません。では!」
トモハルは自分の少ない荷物を、既に手に持っていた。
まるで、今日、こうなることを、わかっていたかのように。
「まーったく、お前のせいで幾つ仕事に穴が開いたと思ってんだ…」
ぶつぶつと小言らしきことを言われながら、トモハルは男の後を付いていく。
私はただそれを見つめることしかできなくて。
藤の花が風に吹かれて散り、舞う。
最後にトモハルが門の前で振り返った。
「ありがと、ひなの。」
太陽みたいに、笑って。