いろはにほへと
一瞬にして、屋敷は静けさを取り戻した。
まるでそこには何もなかったかのように、最初から何も変わらなかったかのように。
ただ、呆然とその場に立ち尽くす。
「夢、でしょうか…」
私が帰るまで、あと9日。
私が当初求めていた静寂。
満開の藤の花。
ひらひらと。
最後のお別れの時位は。
眼鏡を外せば良かった、と。
わかっていれば、もっと顔を見たのに、と。
伝えたい言葉を考えておいたのに、と。
思った。
突然現れた客人は。
最初と同じように、突然、去って行った。
何一つ、残さずに。