いろはにほへと
それから数日後。
地方でプロモの撮影があった。
都内でいいと言ったのに。
時間が、余りになくて。
余裕もなくて。
全部が、なんか無駄に思えて。
「例の主題歌の話だけど」
撮影の合間に、早川が話しかけてきた時にはもう限界だった。
ちょうど休憩時間で、他のメンバーは近所に飯を食いに行って席を外していた。
俺はコールマンのリゾートチェアに座り、ペットボトルのお茶を飲んで居る所で。
プロデューサーまでもが一緒になって俺を諭しにかかる。
「無理です。作れない。」
早川を見上げることもせずに、気のない返事をすると、あからさまな早川の溜め息が聞こえた。
「…わかった。じゃ、今までに作った曲でいいよ」
「…は?」
耳を疑った。
今までの、曲で、いい?
さすがに驚いて、早川とプロデューサーの顔を見ると、二人とも良い案だとでもいうように、頷き合っている。