いろはにほへと
和室に案内され、仲居も消えて、やっと一息吐く頃には夕方。



けたたましく鳴ってたスマホの電源も落としたし、これで暫くは考え事ができると思ったが。




追っ手は次から次へと居場所を突き止めてくる。




元々余り数のない宿泊施設を転々としている内に、情報が漏れたのか世間が騒ぎ始めた。





情報を流す奴は旅館の中にも居て、朝、奇襲をかけられた時には、さすがにもう逃げ道はないかなと思った。




玄関口に早川達が来て居るのを見つけて、慌ててリュックを引っ掴んで、旅館の裏口から逃げたけど。





「あ、遥!!!!」





人気のない田舎だ。


直ぐに見つかって、追いかけっこが始まる。





「待てーーー!!!止まれーーー!!!!!」






逃げて何になるんだって、頭の中ではわかってたけど。




でも、何の為に歌ってるんだかわからなくなった自分が。




今戻ったところで良い曲が書けるとは思えなかった。






これだけスケジュールが立て込んでいる中で、早川が休みを入れてくれるなんてことも考えられなかったし、暫く業界の人間とは顔を合わせたくなかった。






ただ、ひたすら。




良い歳して、逃げた。


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