いろはにほへと
「あっちの方行ったぞー!!!!」
良かった、プロデューサーの声が遠退いている。
撒けたか。
ほっと一息吐きながら、草を掻き分けて行く。
あの塀を見る限りでは、恐らく、大きな屋敷だ。
だが、こんなに草が生えっぱなしの所を見ると、無人だろうか。
そうかもしれない。
門の鍵が開いていた点は気になるが、暫くここで厄介になるか―。
ちょうど、かがんだ草の隙間から大きな屋根らしきものが見えて、立ち上がった。
ら。
あれ。
―屋敷の中に、誰か、居る。
「うわぁっ!?」
余りにびっくりし過ぎて、掛けていたサングラスがおっこちた。
「おわっ…!?」
前髪と鼻と口しかない、長い髪の女の子が、叩きを片手に脚立の上からこちらを見ている。
それはそれは静かに。