元殺し屋と、殺し屋~anotherstory~
やがて和泉さんは、エレベーターの前で立ち止まり、ボタンを押す。
エレベーターは闇みたいな黒で、金色の立派な竜が描かれていた。
ボタンを押した和泉さんは、人差し指をスライドさせ、マイクに向かって「アイス」と話した。
このエレベーターが、ボスの部屋まで続く特別なエレベーターなんだ。
多分あのマイクには、声認証システムが導入されているはずだ。
声認証システムに登録されているのは、限られている数人。
しかも、幹部以上などという甘い話ではないはずだ。
幹部の中でも限られた、ボスに出会うことを許された存在のみ。
きっと、5人もいないだろうな。
ちなみにチサが今話したことは全て、この間見たドラマで刑事さんが話していた所。
チサこう見えて、刑事ドラマ好きなんだ。
暫く防犯システムを解除していた和泉さんが、エレベーターの中に入っていく。
扉が開いたままなので、チサも恐る恐る入る。
「緊張した?」
「・・・」
「あ、もう話しても良いよ」
「はい、しました」
「しない方が可笑しいよねぇ。
僕も最初の方は緊張したもん」
アハハと呑気に笑う和泉さん。
つかみどころがない。
「何か聞きたいことある?
僕が知る範囲なら、教えてあげても良いよ」