元殺し屋と、殺し屋~anotherstory~
☆紅羽side☆
あれは、澪鵺とデートに出掛けた日だ。
近くの博物館に、珍しい絵画が展示されると聞き、絵画などに興味があると言う澪鵺の頼みで、そこへ出掛けた。
絵画を見て、軽く喫茶店でご飯を食べ、帰ろうとしたところだ。
「あ、澪鵺、雨降っているよ」
「本当だ・・・」
朝はあんなに晴れていたのに、今はどんより曇り空。
滝のように雨は降っていたので、傘なしでは帰れないだろう。
私はその日、澪鵺と別れた後は陽詩さんと合流して、フレンチトーストの作り方を教えてもらおうと約束していた。
雨宿りなどとしていたら、陽詩さんに悪い。
ちなみになぜ、フレンチトーストなのか。
幼い頃から料理の好きだった陽詩さんは、時々氷さんに手料理を振舞うのだが、意外に食に関して厳しい意見を放つ氷さんは、滅多に「美味しい」と言ってくれないらしい。
そんな氷さんがこの間初めて「美味しい」と言ってくれたのだ。
それが、陽詩さんが唯一お母さんから教わった料理・フレンチトーストだったのだ。
その話をたまたま陽詩さんと会った時教えてもらい、私も澪鵺に作りたいと思ったのだ。
澪鵺にも、「美味しい」と笑顔になってほしい。
それなのに。
こんな土砂降りの雨じゃ・・・待ち合わせに間に合わない。
優しい陽詩さんのことだから、少しは許してくれるだろうが、私は遅刻が多い。
しかも今回は私から陽詩さんに頼んでいるのだ。
頼んだ張本人が遅れるのは可笑しいし、相手にも悪い。