明日の地図の描き方
(ここって…どの辺り…?)
話しながら歩いてたせい?住宅街の真ん中で、道が分かんない…。
くるっと振り返り、後ろ確認。良かった。小野山さん、まだそこにいた。
「どうしました?」
「あの…」
私の質問に、小野山さん、ぷっ…と吹き出しかけて、慌てて止めましたよね?
「ーーすみません…」
ポリスマンに付き添われて歩くなんて、今後二度と嫌だ。
車道に出るまでの道案内頼んだ。小野山さん、いやいや、これも仕事ですから…って、顔笑ってるじゃん。
二、三分歩いてやっと分かる道まで出て来られた。
「どうもありがとうございました。すみませんでした」
恥ずかしくて下向いたままお礼言った。小さい子じゃあるまいし、来た道帰れないなんて、あんまりだ、私…。
「お気をつけて」
「はい…どうも…」
小野山さんの顔見ずに、背中向けた。
「前島さん!」
張りのある声に驚いて顔上げた。目の前に回り込んで来た小野山さん、私の顔見て微笑んだ。
「良かった…泣いてるのかと思った」
キョトン…
「さっきお婆さんと別れた後、なんだか哀しそうな顔してたんで」
(……読まれた?)
仕事で培ってきた技術、無意識にも意識的にも使ってた。辛くなるのは、分かってたのに…。
「大丈夫ですよ」
口先だけの言葉。ダメだ。やっぱり笑えない…。
小野山さん、何も言わずこっち見てる。勘の鋭い眼差し。ちょっと怖いくらいだ。
「ならいいです。では」
軽く一礼して去ってく。
(はぁ…良かった…)
泣きそうだった。危うく…。
歩き出す足が重い。仕事をしてた頃の胸苦しさに襲われて、思うように足が出せない。
妙に悲しくて、辛い…。
もう仕事辞めたんだから、素直に泣いてもいいのに、我慢しちゃう。
そんな事するから、また笑えなくなる。
(悪循環だ…)
気持ち滅入ると、何しても楽しくない。
(仕方ない…本屋に寄るだけにしよ…)
ぶらっと立ち読みのつもりで入った。来年のカレンダーやスケジュール帳、沢山並んだコーナーに目が行く。
「そっか…もうそんな時期なんだ…」
仕事辞めて気づいた。
月日や季節って、無意識でいると確認しないんだって。仕事してる時は、毎日聞かれてたのに。
(あれって、私に意識づけしてくれてたんだな…)
今頃気づいて、妙に有難くなる。一方的かと思ってたけど、そうじゃなかったんだって分かって、少しだけ気持ち明るくなった。
そのままの気持ちで店内歩いて、見つけた雑誌の文字。
“リンゴ狩りに行こう‼︎ ”
(リンゴ狩りか…いいなぁ…行ってみたい…)
ーーと言うか、これはもう、“お試し”するべきでしょ!
雑誌買って読んだら、意外と近場でやってる事が分かって…。でも、問題は『誰と行くか』
(暇な私に付き合える人か…)
理子ちゃんは…就活山場だし、友達は…家庭や仕事あるし…。
ケータイのアドレス開いて、適当な人探しててふと思った。
(あの人…いいかも!)
一週間後、台風一過の秋晴れ。きれいな青空が広がってた。
「晴れて良かったですね」
「ホント。一昨日の雨、嘘みたいですね」
リンゴ畑の中、草露に濡れながら歩いてた。
一週間前の夜、思いきって電話した相手…
「リンゴ狩り、行きませんか?」
「はっ?リンゴ⁈ 」
小野山さん、私が電話してきた事より、そっちを驚いてた。
「今日、本屋さんで情報誌に目が行って、どんなもんか体験したくなりまして…。したことあります?」
「ああ、子供の頃に一度…」
そりゃ好都合!
「私した事ないんですよ。ご一緒にしてもらえませんか?」
今日助けてあげたでしょ…?なんて、それは言わないけどね。
「僕でいいんですか?」
んっ?どういう意味なの?それ…
「いいですよ!お願いできますか?」
元気良く言うと、ホッとしたような声で返事があった。
「喜んでお供します!」
あはっ。良かった。
…という訳で、今日に至る。
台風の後で葉が結構散ってるけど、おかげでリンゴは取りやすい。
「前島さん、リンゴ好きなんですか?」
「えっ⁉︎ ううん、そうでもないですよ」
なのに、何故リンゴ狩りに来たのかって顔してますね。
「私、果物狩りした事なかったので興味があって。どんなのか一度体験しておきたいと思ったから」
ハサミ使って赤い実を切り落とす。収穫を自分でするのって、結構充実感あるね。
「うれしいですね。自分で獲るのって」
手の上のリンゴ、眺めながら言った。
「…良かった」
「何がですか?」
顔向けると、小野山さんがこっち見てた。
「今日は笑ってるから」
はっ…?
「あっ…そ、そうですね…」
なんか面と向かって言われると照れるよね。
「この間もその前も、前島さん辛そうな顔してたから、心配してたんです。今日もかなって…」
「そ、それはどうも…すみません…」
数える程しか会ってないのに、心配かけてたんですね。
「泣きそうな顔してるのに泣かないし、強い人だからかなって思ったけど、無理してるようにも見えたし…」
「はは…」
鋭いわぁ。ホントに…。
「今日は大丈夫みたいですね」
その言葉にちらっと目線合わせる。
「うん、大丈夫ですよ」
無理なく笑えた。
一カゴ分収穫して、りんご狩りは終了。
剥いてあるリンゴ、シャキシャキ食べながら、次どこ行きましょうって話をしてたら…
「ここ行きましょう!」
小野山さんが地図指さして…。
話しながら歩いてたせい?住宅街の真ん中で、道が分かんない…。
くるっと振り返り、後ろ確認。良かった。小野山さん、まだそこにいた。
「どうしました?」
「あの…」
私の質問に、小野山さん、ぷっ…と吹き出しかけて、慌てて止めましたよね?
「ーーすみません…」
ポリスマンに付き添われて歩くなんて、今後二度と嫌だ。
車道に出るまでの道案内頼んだ。小野山さん、いやいや、これも仕事ですから…って、顔笑ってるじゃん。
二、三分歩いてやっと分かる道まで出て来られた。
「どうもありがとうございました。すみませんでした」
恥ずかしくて下向いたままお礼言った。小さい子じゃあるまいし、来た道帰れないなんて、あんまりだ、私…。
「お気をつけて」
「はい…どうも…」
小野山さんの顔見ずに、背中向けた。
「前島さん!」
張りのある声に驚いて顔上げた。目の前に回り込んで来た小野山さん、私の顔見て微笑んだ。
「良かった…泣いてるのかと思った」
キョトン…
「さっきお婆さんと別れた後、なんだか哀しそうな顔してたんで」
(……読まれた?)
仕事で培ってきた技術、無意識にも意識的にも使ってた。辛くなるのは、分かってたのに…。
「大丈夫ですよ」
口先だけの言葉。ダメだ。やっぱり笑えない…。
小野山さん、何も言わずこっち見てる。勘の鋭い眼差し。ちょっと怖いくらいだ。
「ならいいです。では」
軽く一礼して去ってく。
(はぁ…良かった…)
泣きそうだった。危うく…。
歩き出す足が重い。仕事をしてた頃の胸苦しさに襲われて、思うように足が出せない。
妙に悲しくて、辛い…。
もう仕事辞めたんだから、素直に泣いてもいいのに、我慢しちゃう。
そんな事するから、また笑えなくなる。
(悪循環だ…)
気持ち滅入ると、何しても楽しくない。
(仕方ない…本屋に寄るだけにしよ…)
ぶらっと立ち読みのつもりで入った。来年のカレンダーやスケジュール帳、沢山並んだコーナーに目が行く。
「そっか…もうそんな時期なんだ…」
仕事辞めて気づいた。
月日や季節って、無意識でいると確認しないんだって。仕事してる時は、毎日聞かれてたのに。
(あれって、私に意識づけしてくれてたんだな…)
今頃気づいて、妙に有難くなる。一方的かと思ってたけど、そうじゃなかったんだって分かって、少しだけ気持ち明るくなった。
そのままの気持ちで店内歩いて、見つけた雑誌の文字。
“リンゴ狩りに行こう‼︎ ”
(リンゴ狩りか…いいなぁ…行ってみたい…)
ーーと言うか、これはもう、“お試し”するべきでしょ!
雑誌買って読んだら、意外と近場でやってる事が分かって…。でも、問題は『誰と行くか』
(暇な私に付き合える人か…)
理子ちゃんは…就活山場だし、友達は…家庭や仕事あるし…。
ケータイのアドレス開いて、適当な人探しててふと思った。
(あの人…いいかも!)
一週間後、台風一過の秋晴れ。きれいな青空が広がってた。
「晴れて良かったですね」
「ホント。一昨日の雨、嘘みたいですね」
リンゴ畑の中、草露に濡れながら歩いてた。
一週間前の夜、思いきって電話した相手…
「リンゴ狩り、行きませんか?」
「はっ?リンゴ⁈ 」
小野山さん、私が電話してきた事より、そっちを驚いてた。
「今日、本屋さんで情報誌に目が行って、どんなもんか体験したくなりまして…。したことあります?」
「ああ、子供の頃に一度…」
そりゃ好都合!
「私した事ないんですよ。ご一緒にしてもらえませんか?」
今日助けてあげたでしょ…?なんて、それは言わないけどね。
「僕でいいんですか?」
んっ?どういう意味なの?それ…
「いいですよ!お願いできますか?」
元気良く言うと、ホッとしたような声で返事があった。
「喜んでお供します!」
あはっ。良かった。
…という訳で、今日に至る。
台風の後で葉が結構散ってるけど、おかげでリンゴは取りやすい。
「前島さん、リンゴ好きなんですか?」
「えっ⁉︎ ううん、そうでもないですよ」
なのに、何故リンゴ狩りに来たのかって顔してますね。
「私、果物狩りした事なかったので興味があって。どんなのか一度体験しておきたいと思ったから」
ハサミ使って赤い実を切り落とす。収穫を自分でするのって、結構充実感あるね。
「うれしいですね。自分で獲るのって」
手の上のリンゴ、眺めながら言った。
「…良かった」
「何がですか?」
顔向けると、小野山さんがこっち見てた。
「今日は笑ってるから」
はっ…?
「あっ…そ、そうですね…」
なんか面と向かって言われると照れるよね。
「この間もその前も、前島さん辛そうな顔してたから、心配してたんです。今日もかなって…」
「そ、それはどうも…すみません…」
数える程しか会ってないのに、心配かけてたんですね。
「泣きそうな顔してるのに泣かないし、強い人だからかなって思ったけど、無理してるようにも見えたし…」
「はは…」
鋭いわぁ。ホントに…。
「今日は大丈夫みたいですね」
その言葉にちらっと目線合わせる。
「うん、大丈夫ですよ」
無理なく笑えた。
一カゴ分収穫して、りんご狩りは終了。
剥いてあるリンゴ、シャキシャキ食べながら、次どこ行きましょうって話をしてたら…
「ここ行きましょう!」
小野山さんが地図指さして…。