明日の地図の描き方
「ひぃ…はぁ…ふぅ…」
(ーーあ〜すごく体力落ちてる…。足痛〜い…」
りんご園の近くにある山寺へ続く階段、急すぎる。
私の前を歩いてる小野山さん、息も切れてないよ。一体どんだけな体力の持ち主なの。
「…ふぅ」
(あー、もうダメ。ちょっと休んじゃえ)
立ち止まって小休止してると、小野山さん、階段下りて来た。
「大丈夫ですか?」
(大丈夫な訳ないでしょ…)
「疲れてます…」
仕事辞めて二ヶ月以上、殆ど身体も動かしてなかったもんね。
「休みながら行きますか。まだ半分くらいだし」
「えっ⁉︎ これでまだ半分⁈ 」
どんだけ高い所にあるの、この山寺…。
弱音吐きそうな私の耳に、小野山さんの言葉響いた。
「辛く厳しい先に、喜びがあるんです」
(何…?僧侶の言葉…?)
説得力あり過ぎだよね。
小野山さん、私の息が整うのを待って、再び歩き出す。同じペースで確実に、上へ向かって…。
石段見つめながら後を追う。その一歩一歩が、まるで私の仕事と同じだな…って気がしてきた。
仕事を始めた頃からずっと、前に進んでると思ってた。なのに道は、いつの間にか上へ向かってた。
私はその道の頂上を目指して歩いてた訳じゃなかったから、途中で息が切れて挫折した…。
(誰かに決められて作る未来なんてウンザリだ。自分の未来は、自分で作りたい…)
そう思って仕事を辞めた。
なのに、今、その未来ですらよく見えない。
(私の目指してたものって、何なんだろう…)
そもそも仕事してた頃、何を目指していたんだっけ?
最初は仕事を覚えること、そして次に慣れること。それから資格取って、専門的な知識活かして働くこと…。
でもそれは、全て相手の笑顔が見たいから。
そこが目標だったから。
でも、今は……
笑わせる相手もいない。自分と向き合うだけの日々。
笑えない、泣けない…。
素直になれない自分と見えない明日…。
どうして行けばいいのか、どうやって歩いて行けばいいのか、迷ってばかりで決まらない…。
ずっと続く階段に、息も絶え絶え。
でも、歩み止められない。それは、時間は止まるのと同じような気がして…。
「はぁ…」
苦しい…まだ着かない…。
この先に喜びがあると言われても、今は地獄だ…。
「…はい」
「んっ⁈ 」
(手…?)
「捕まって」
声の主見上げる。あっ…地獄に仏って、こんな時に使うのかな。
「す、すみません…」
差し出した手を握ってくれる。あったかい…。ホッとする。
(小野山さんみたいに、さり気なく人に優しくできるようになりたいな…)
仕事での私は、いつも気を遣った優しさばかりだった。
相手のことを考えつつも、やってる事は自分の為。結局、相手の為にも、自分の為にもなってなかった…。
「もうすぐですよ」
その声に、初めて顔上げた。
続いてた階段が途切れてる…。
「はい、到着!」
両足が地面に着くの確認して言ってくれる。
振り返った階段の先に緑の森。裾野に広がるりんご畑と田園風景。そのずっと先に見える、青い海と広い空……。
「はぁー……」
大きく息吐いて、深呼吸。
心臓はまだ早いけど、それも気にならない程の達成感…とはちょっと違う、むしろ充実感に近い。
喜びと言うよりも、気分上々って感じ。
「いい眺めですね」
大きく息吸う。なんかいろいろ考えながら上ってきたけど、不思議と気持ちスッキリ。
「一応お参りして行きますか?ここの寺、霊験あらたかみたいですよ」
お寺の説明看板、熱心に読んでた小野山さん、そう教えてくれた。
「じゃあお参りしておきましょうよ。今後のこと、いろいろお願いしたいし…」
歩き出して、ふと気づいた。
私達、ずっと手を繋いでる。しかも、すごく自然に…。
(なんか不思議だ…)
小野山さんの優しさは、いつも自然でさり気ない。嫌味でもなく、むしろ心地いい…。
(なんでだろ…)
本堂の前まで来て、小野山さん、やっと気づいたらしい。
「す、すみません!ずっと握ってたんですね」
いや、今更のように焦られても…。
「いいですよ。あったかでしたから」
意識もしてなかったから、手に汗もかかなかったし。
離してお互い、自分の手を合わせた。
願い事その一
(小野山さんみたいに、さり気ない優しさ持つ人になりたい!)
願い事その二
(毎日、充実した生活を送りたい!)
願い事その三
(素直な自分になりたい…)
三番目の願い事が頭に浮かんだ時、それが一番の願いだな…って思った。
笑いたい時に思いっきり笑って、泣きたい時にしっかり泣く。
そうできる自分になりたい…。
(本堂の奥の仏様…私のお願い、聞いて下さい…)
「えらく真剣に拝んでましたね」
山の麓を見渡せる場所に設置されたベンチに腰掛け一休み。小野山さん、振り向いて聞いた。
「何をあんなに一生懸命拝んでたんですか?」
(それ聞くのか…)
「小野山さんみたいに、なりたいなぁ…って」
わざと明るく、高めの声で言ってみた。
ふふふ。戸惑ってる。可愛い。
「さり気なく人に優しくできる、そんな人になりたいなって。私なかなか、そうできないので。それから、充実した生活が送れますようにって。今、仕事も何もしてなくて、毎日ボーッと過ぎてるから…」
妙に納得するように頷いてる。
ふっ…。正にって感じかな。
「それから、もっと素直な自分になりたいな…って」
遠くの海、眺めながら言った。
「素直じゃないんですか?」
小野山さん、不思議そうに聞き返した。
「素直じゃないですよ。気も強いし、意地っ張りだし…」
ブツブツ言い訳。
小野山さん、そんな私を見て、笑い噛み締めてた。
「小野山さんは?何を拝んだんですか?」
私ばかりじゃ不公平よね。
「僕は、心願成就を」
「何ですか?それ」
難しい四字熟語。頭の固い公務員用語?
「昔から願ってる事が叶いますようにって」
「昔から?子供の頃からですか?」
「そう。中学くらいから」
「そんな前から?何を願ってるんです?」
(私なんて、子供の頃から願い事あり過ぎて、大体いつも違うのに…)
ワクワクする私の視線から、目逸らした。珍しく躊躇いながら、それでも教えてくれた。
「地域住民の安全と平和…です」
「えっ…⁈ 」
拍子抜け。地域住民の安全と平和…って、こんな所で願うものなの⁈
「それ、ずっと願ってるんですか?」
半分冗談でしょって聞いた。そしたら、とっても真面目な顔して答えられたよ。
「いえ、願ってるんです。警察官になろうと決めた時から」
(ええーっ…すごいっ‼︎ )
その意志の固さに、思わず拍手したくなったわ…。
(ーーあ〜すごく体力落ちてる…。足痛〜い…」
りんご園の近くにある山寺へ続く階段、急すぎる。
私の前を歩いてる小野山さん、息も切れてないよ。一体どんだけな体力の持ち主なの。
「…ふぅ」
(あー、もうダメ。ちょっと休んじゃえ)
立ち止まって小休止してると、小野山さん、階段下りて来た。
「大丈夫ですか?」
(大丈夫な訳ないでしょ…)
「疲れてます…」
仕事辞めて二ヶ月以上、殆ど身体も動かしてなかったもんね。
「休みながら行きますか。まだ半分くらいだし」
「えっ⁉︎ これでまだ半分⁈ 」
どんだけ高い所にあるの、この山寺…。
弱音吐きそうな私の耳に、小野山さんの言葉響いた。
「辛く厳しい先に、喜びがあるんです」
(何…?僧侶の言葉…?)
説得力あり過ぎだよね。
小野山さん、私の息が整うのを待って、再び歩き出す。同じペースで確実に、上へ向かって…。
石段見つめながら後を追う。その一歩一歩が、まるで私の仕事と同じだな…って気がしてきた。
仕事を始めた頃からずっと、前に進んでると思ってた。なのに道は、いつの間にか上へ向かってた。
私はその道の頂上を目指して歩いてた訳じゃなかったから、途中で息が切れて挫折した…。
(誰かに決められて作る未来なんてウンザリだ。自分の未来は、自分で作りたい…)
そう思って仕事を辞めた。
なのに、今、その未来ですらよく見えない。
(私の目指してたものって、何なんだろう…)
そもそも仕事してた頃、何を目指していたんだっけ?
最初は仕事を覚えること、そして次に慣れること。それから資格取って、専門的な知識活かして働くこと…。
でもそれは、全て相手の笑顔が見たいから。
そこが目標だったから。
でも、今は……
笑わせる相手もいない。自分と向き合うだけの日々。
笑えない、泣けない…。
素直になれない自分と見えない明日…。
どうして行けばいいのか、どうやって歩いて行けばいいのか、迷ってばかりで決まらない…。
ずっと続く階段に、息も絶え絶え。
でも、歩み止められない。それは、時間は止まるのと同じような気がして…。
「はぁ…」
苦しい…まだ着かない…。
この先に喜びがあると言われても、今は地獄だ…。
「…はい」
「んっ⁈ 」
(手…?)
「捕まって」
声の主見上げる。あっ…地獄に仏って、こんな時に使うのかな。
「す、すみません…」
差し出した手を握ってくれる。あったかい…。ホッとする。
(小野山さんみたいに、さり気なく人に優しくできるようになりたいな…)
仕事での私は、いつも気を遣った優しさばかりだった。
相手のことを考えつつも、やってる事は自分の為。結局、相手の為にも、自分の為にもなってなかった…。
「もうすぐですよ」
その声に、初めて顔上げた。
続いてた階段が途切れてる…。
「はい、到着!」
両足が地面に着くの確認して言ってくれる。
振り返った階段の先に緑の森。裾野に広がるりんご畑と田園風景。そのずっと先に見える、青い海と広い空……。
「はぁー……」
大きく息吐いて、深呼吸。
心臓はまだ早いけど、それも気にならない程の達成感…とはちょっと違う、むしろ充実感に近い。
喜びと言うよりも、気分上々って感じ。
「いい眺めですね」
大きく息吸う。なんかいろいろ考えながら上ってきたけど、不思議と気持ちスッキリ。
「一応お参りして行きますか?ここの寺、霊験あらたかみたいですよ」
お寺の説明看板、熱心に読んでた小野山さん、そう教えてくれた。
「じゃあお参りしておきましょうよ。今後のこと、いろいろお願いしたいし…」
歩き出して、ふと気づいた。
私達、ずっと手を繋いでる。しかも、すごく自然に…。
(なんか不思議だ…)
小野山さんの優しさは、いつも自然でさり気ない。嫌味でもなく、むしろ心地いい…。
(なんでだろ…)
本堂の前まで来て、小野山さん、やっと気づいたらしい。
「す、すみません!ずっと握ってたんですね」
いや、今更のように焦られても…。
「いいですよ。あったかでしたから」
意識もしてなかったから、手に汗もかかなかったし。
離してお互い、自分の手を合わせた。
願い事その一
(小野山さんみたいに、さり気ない優しさ持つ人になりたい!)
願い事その二
(毎日、充実した生活を送りたい!)
願い事その三
(素直な自分になりたい…)
三番目の願い事が頭に浮かんだ時、それが一番の願いだな…って思った。
笑いたい時に思いっきり笑って、泣きたい時にしっかり泣く。
そうできる自分になりたい…。
(本堂の奥の仏様…私のお願い、聞いて下さい…)
「えらく真剣に拝んでましたね」
山の麓を見渡せる場所に設置されたベンチに腰掛け一休み。小野山さん、振り向いて聞いた。
「何をあんなに一生懸命拝んでたんですか?」
(それ聞くのか…)
「小野山さんみたいに、なりたいなぁ…って」
わざと明るく、高めの声で言ってみた。
ふふふ。戸惑ってる。可愛い。
「さり気なく人に優しくできる、そんな人になりたいなって。私なかなか、そうできないので。それから、充実した生活が送れますようにって。今、仕事も何もしてなくて、毎日ボーッと過ぎてるから…」
妙に納得するように頷いてる。
ふっ…。正にって感じかな。
「それから、もっと素直な自分になりたいな…って」
遠くの海、眺めながら言った。
「素直じゃないんですか?」
小野山さん、不思議そうに聞き返した。
「素直じゃないですよ。気も強いし、意地っ張りだし…」
ブツブツ言い訳。
小野山さん、そんな私を見て、笑い噛み締めてた。
「小野山さんは?何を拝んだんですか?」
私ばかりじゃ不公平よね。
「僕は、心願成就を」
「何ですか?それ」
難しい四字熟語。頭の固い公務員用語?
「昔から願ってる事が叶いますようにって」
「昔から?子供の頃からですか?」
「そう。中学くらいから」
「そんな前から?何を願ってるんです?」
(私なんて、子供の頃から願い事あり過ぎて、大体いつも違うのに…)
ワクワクする私の視線から、目逸らした。珍しく躊躇いながら、それでも教えてくれた。
「地域住民の安全と平和…です」
「えっ…⁈ 」
拍子抜け。地域住民の安全と平和…って、こんな所で願うものなの⁈
「それ、ずっと願ってるんですか?」
半分冗談でしょって聞いた。そしたら、とっても真面目な顔して答えられたよ。
「いえ、願ってるんです。警察官になろうと決めた時から」
(ええーっ…すごいっ‼︎ )
その意志の固さに、思わず拍手したくなったわ…。