ラン・エ リーズ

「どこのどなたか知らないが助かった。
礼を言わせてくれ…

あれ?お前、
さっきの…」





「…」





リュンヌは何も言わなかった。

ただ彼の方を振り返っただけだった。





「あっあの、
さきほども助けていただいて…
ありがとうございました!
私はマリアと申します。何かお礼をさせてください。」





マリアは緑色の髪を持つ
小柄な女性だった。

声は比較的高く、
あどけなく見えるが品のある仕草を見ると
少女ではなく女性なのだ。





リュンヌはマリアに声をかけられたにも関わらず
礼だけして二人のもとを
去ろうとした。






「君は口がないのか!?」

そんなことさせまいと
好青年がまたリュンヌの腕を掴んだ。







「彼女がこういってるんだ、
せめて名でも名乗ったらどうなんだ!?」







リュンヌは掴まれた腕を眺め、
好青年の顔を見上げた。

青年はリュンヌより少し高く
歳も上なのだろう。

落ち着いたオレンジ色の髪で
瞳の色も明るい茶色だ。







「シュクルだ」


「…」


「君は?」



「…」








しばらく
森の声がうるさかった。







どれくらいたっただろうか、
ようやく静かさが戻ったときだった。







空気が伝えるはずの音だが
そのときは違った。


まさに風だった。



男の声は明らかに風がのせて
シュクルとマリアの耳に届いた。








「リュンヌ」







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