冷たい手
今、時間帯はお昼。
家を出るときに、ダイチがミカに何を食べたいかを聞いたところ。
「なんでもいいですよ。」というミカの返事が返ってきたので、ダイチは悩んでいるところだった。

車内は、ミカが助手席。ダイチが運転席に座り、とりあえず近くのデパートへ向かう。
ダイチが喋らないため、車内はラジオがかかっていてもどこか静かだった。

ラジオで、どこかの出版社に務めている編集者が、インタビューを受けていた。
ダイチはラジオを指さす。
「小説が好きなんですか?」
そうミカが聞くと、ダイチは首を横に振る。
「? 編集者が知っているヒトなんですか?」
大地は少し悩み、また首を横に振る。そして口を開いた。
「い、う、ん、…?」
ミカがその口を読む。けれど、それは大地の考えとは違う。
ダイチは『じ、ぶ、ん』と言いたかった。
伝わらないことが嫌になり、ダイチは口を閉じた。

ラジオでは、自分の事を自分の知っている編集者が話していた。
自分は小説はが好き。だけど、それらを全て伝えることが出来なくて。

伝えよう。喋ろう。
ダイチは、声を出すことにした。声を出せないのは、嘘だから。

車内はデパートへ着くまでの数分間、沈黙に包まれた。
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