Again
「このホテルから離れなくちゃ、でも、どうしよう。何処に行けばいいの?」
パニックになっているときは、涙はでないものなのかもしれない。葵は今、自分がどういう行動を起こしたら一番いいのかを冷静に考え始めていた。
「パリには日本の旅行会社の支店があるはず。ホテルはそこで紹介してもらった方がいいか、それとも、観光案内所に行った方が早いか。それにしてもこんな時間だもの、もう閉店しているわよね。そうだ、タクシーに乗って、今から泊まれるホテルを教えて貰えばいいか。そうだ取り敢えずそうしよう。それでも無理だったら、空港に戻って一夜を明かせばいいわ」
パニックになっている葵はどうしたらいいのか一生懸命考えた。ホテル業務を仕事にしている葵はトラブルの対処法を熟知しているはずだが、全く対処法が見つからない。少し高揚している自分を抑えようと頬に手を当ててみると、自分でも驚くほど手が冷たかった。それほどまでに、部屋で遭遇してしまった情景は衝撃だったのだ。
ホテルのロビーに出ると、先ほどのベルボーイと目が合う。軽く会釈をして、ロータリーに運良くいたタクシーに乗り込んだ。
バッグから会話帳を取出し宿泊とインデックスがあるページを開く。そのページを運転手に渡しつつ、翻訳アプリを広げる。震える指先がキーをうまく叩けない。
すると、ニュアンスで分かったのか、運転手は親指を立てて分かったサインを出した。
葵は安心の笑みをかけ、頭を下げる。その間にも、もしものことを考えて検索した。
パリ市内をどれくらい走ったのかはスマホに夢中で分からなかったが、サイドブレーキを引く音で顔を上げる。
「着いたのかな? ホテル?」
窓から見える建物に向かって指をさして、ホテルかと聞く。運転手はホテルだと答えた。
「助かった……変なところに連れて行かれずにちゃんとホテルに連れて来てくれたんだ……」
料金に、チップを上乗せして支払うと、運転手はにこやかに笑ってくれた。案内されたホテルは、カジュアルなホテルで、フロントにいるホテルマンも、気さくな笑顔で迎えた。その笑顔につられるように、フロントに行き、部屋が空いているか聞く。
ハイシーズンでもないからか、運よく部屋は空いていた。キーを渡され、葵は部屋に向かった。カードさえあれば、多少のことは大丈夫だ。お金のことは全く心配いらない。こんな時に、副社長夫人だったことに感謝をする。
「あたし、バカみたい。英語はしゃべれるんだった」
日本語とジェスチャーをしていた自分を思い出し、笑ってしまう。
「あった、ここだ」
部屋の中に入ると、狭い割には、窓から見えるパリの夜景が素晴らしかった。料金は景色がいいことを含めた値段だな。とのんきに考えていた。窓に近づき暫く眺めていると、やっと現実を受け止めることが出来て、泣くことが出来た。
「なんで、どうして……」
ホテルでの事を思い出して崩れるように葵は泣いた。
パニックになっているときは、涙はでないものなのかもしれない。葵は今、自分がどういう行動を起こしたら一番いいのかを冷静に考え始めていた。
「パリには日本の旅行会社の支店があるはず。ホテルはそこで紹介してもらった方がいいか、それとも、観光案内所に行った方が早いか。それにしてもこんな時間だもの、もう閉店しているわよね。そうだ、タクシーに乗って、今から泊まれるホテルを教えて貰えばいいか。そうだ取り敢えずそうしよう。それでも無理だったら、空港に戻って一夜を明かせばいいわ」
パニックになっている葵はどうしたらいいのか一生懸命考えた。ホテル業務を仕事にしている葵はトラブルの対処法を熟知しているはずだが、全く対処法が見つからない。少し高揚している自分を抑えようと頬に手を当ててみると、自分でも驚くほど手が冷たかった。それほどまでに、部屋で遭遇してしまった情景は衝撃だったのだ。
ホテルのロビーに出ると、先ほどのベルボーイと目が合う。軽く会釈をして、ロータリーに運良くいたタクシーに乗り込んだ。
バッグから会話帳を取出し宿泊とインデックスがあるページを開く。そのページを運転手に渡しつつ、翻訳アプリを広げる。震える指先がキーをうまく叩けない。
すると、ニュアンスで分かったのか、運転手は親指を立てて分かったサインを出した。
葵は安心の笑みをかけ、頭を下げる。その間にも、もしものことを考えて検索した。
パリ市内をどれくらい走ったのかはスマホに夢中で分からなかったが、サイドブレーキを引く音で顔を上げる。
「着いたのかな? ホテル?」
窓から見える建物に向かって指をさして、ホテルかと聞く。運転手はホテルだと答えた。
「助かった……変なところに連れて行かれずにちゃんとホテルに連れて来てくれたんだ……」
料金に、チップを上乗せして支払うと、運転手はにこやかに笑ってくれた。案内されたホテルは、カジュアルなホテルで、フロントにいるホテルマンも、気さくな笑顔で迎えた。その笑顔につられるように、フロントに行き、部屋が空いているか聞く。
ハイシーズンでもないからか、運よく部屋は空いていた。キーを渡され、葵は部屋に向かった。カードさえあれば、多少のことは大丈夫だ。お金のことは全く心配いらない。こんな時に、副社長夫人だったことに感謝をする。
「あたし、バカみたい。英語はしゃべれるんだった」
日本語とジェスチャーをしていた自分を思い出し、笑ってしまう。
「あった、ここだ」
部屋の中に入ると、狭い割には、窓から見えるパリの夜景が素晴らしかった。料金は景色がいいことを含めた値段だな。とのんきに考えていた。窓に近づき暫く眺めていると、やっと現実を受け止めることが出来て、泣くことが出来た。
「なんで、どうして……」
ホテルでの事を思い出して崩れるように葵は泣いた。