Again
葵は運よく宿泊場所を見つけられたものの、観光する気にはなれなかった。ベッドに横になることなく夜を明かした。





「嫌だ、酷い顔」





泣きはらした目と、崩れたメイクで顔は悲惨なことになっていた。

トランクを開けて、洗面道具と下着をとりだす。バスルームに向かい、シャワーのコックを捻ると、勢いよく水が出た。暫く流しているとお湯に変わり、葵は服を脱ぎシャワーを浴びた。





「さっぱりした」





髪をタオルで拭き、また窓際に立つ。昨日の夜に着いた時は夜景がとても綺麗だったが、朝の光景もまた素敵であった。





「初めて憧れのパリに来たのに……」





昨日の今日では全く気力がわいてこない。ぼーっと立っていても時間は過ぎてゆくばかりである。

昨日は夜について、部屋をよく見ていなかったが、括りは、日本のビジネスホテルといった感じだ。割と綺麗な部屋だった。



お金は心配なかった。結婚前であれば借金まみれで、貧乏旅行になっていたが、自分の貯金もあるし、カードもある。仁が渡している生活費もたっぷりとある。



テレビを点け、初めてベッドに横になる。全く言葉は理解できないが、午前中の情報番組のようだ。テレビを観ていても頭に思い浮かぶのは、昨日の光景だ。上半身裸の仁と下着姿の綺麗な女の人。





「やっぱり仁さんにはああいう女性がお似合いよね」





葵は、仁のような男性に、自分は不釣り合いだと常々思っていた。思っていたことがつい口から出る。冷静なわけではないが、意外と判断は出来た。

夜は余計なことを考える。朝になって改めて考えると、頭はしっかりと物事を考えられるようだ。





「少し眠ろう」





睡眠不足ではいい考えも浮かばない。ベッドにもぐりこんで、目を閉じると、すぐに意識は遠のいていった。



しかし、異国の地での寝慣れないベッドでは、深い眠りにつくことは出来ず、寝苦しい様子で、何度も寝返りをうった。そんな状態であっても少しは眠りにつくことが出来て、どれくらい眠ったのかと、時計を見ると、お昼を過ぎていた。時差ボケもあるせいか、意外とすっきりしている。





「流石にお腹がすいたなあ」





機内食をたべてから何も口にしていない葵は、お腹をさする。

ベッドから出て、顔を洗いに行く。鏡を見ると、一晩で、葵の顔はすっかりやつれていた。スッキリと起きても、目のくぼみは正直に今の葵を表している。帰国することも出来ず、パリにいるしかない。それを考えるだけで、心が重くなる。



< 106 / 163 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop