Again
「とうとう葵ちゃんは見つからなかったな。まあ、当然と言えば当然だが。明日、空港に行くのか?」
仕事も早く済み、仁の部屋で潤とコーヒーを飲みながら話をしていた。
「そんな時間はあるのか?」
仁は憔悴しきっていた。葵を心配するあまり、熟睡できていない。
「作ろうと思えば何とかなるけど?」
「いや、いい……」
葵がパリへ来て既に一週間。時間を見つけては行きそうな所を探してはみたが、全く会う事は出来なかった。
仁に何処からも連絡がないところを見ると、葵自身は無事でいるとみている。仁も仕事とパーティーに追われ、ホテルに帰ってくるのも深夜が多かった。
取引先のホームパーティーには、葵を同伴するつもりだったが、秘書の潤を伴うと、ホストからは、「かわいいと評判の奥様とお会いできなくて残念」と言われてしまっていた。
「お前、本当にこれからどうするんだ?」
コーヒーを口にし、仁の落ち込む様子をこの一週間見てきた潤は、自分のことの様に心配した。幼いころからのつきあいだ。仁の様子を見るだけで葵の事をどれほどに想っていたのか手に取るようにわかる。
「……はあ」
仁は顔を両手で覆い、ソファの背に寄りかかると天井を仰ぎ見る。
「お前が何故急に見合いをして、こんなに早く結婚したのかを聞いていなかったな。いい機会だ。聞かせてくれないか?」
「そうだな」
何か考えがあってそう決めたのだろう、後で聞かせてくれと潤は結婚を決めた時に仁にそう言っていた。仁はそのことを思い出し、重い口を開いた。
仁は、桃香と別れてから特定の女とは付き合いもなく、遊びの女も、もちろんいなかった。仕事に自分の時間を全て費やし、実績を上げていた。少し疲れ気味だった時に葵と会った。気遣いの出来る優しい女性だった。仁は一瞬で葵の雰囲気に癒された。この女の傍にいるだけでずっと穏やかに暮らせる、そう感じた。
「そうか……めぐり逢いはやっぱり縁なんだな。俺がどれだけ女と付き合ってもそんな女とまだめぐり逢ってないのにな」
仁は葵との経緯を潤に話をすると、更に落ち込んだ。潤の言う通り、葵は違うが仁にとっては手繰り寄せたように出会った女だったのだ。それを自らの軽率な行動で全てを台無しにしてしまったのだ。
「葵は多分……いや、家族の為に俺と結婚した。だから葵の気持ちが俺に向いてくれるまでは葵を抱かないと自分に言い聞かせてきたんだ。でも葵の様子を見ていると俺の事を思ってくれていると感じるようになっていた。だからこの機会にパリに誘ったんだ。誘った時の嬉しそうな葵の顔は忘れられない……なんてことをしてしまったんだ」
仁は自分の言葉で口から葵の事を話す度に、走馬灯の様に葵を思い出す。全て楽しそうな顔しか思い出せない。桃香とベッドにいたのを見た葵はどんな顔をしていたのだろう。きっとこれほどまでに見たこともない悲しい顔をしていたに違いない。
「それに、実際一緒に暮らし始めると、俺がどう接していいのか分からないのと、無心で尽くしてくれる葵に後ろめたさを感じてしまって、冷たい態度をしてしまっていた」
「本当に不器用だな、お前。俺に話したように葵ちゃんにも正直な気持ちを言えば良かったのに」
「本当だ。後の祭りか……」
「でも諦めるな。自分をさらけ出して葵ちゃんにぶつかれ、プライドも何もかも捨ててな」
「そうするよ」
仁は潤に話をすることで前向きな気持ちにもなれたが、パリの夜景を見ている横顔は不安で一杯であった。
仕事も早く済み、仁の部屋で潤とコーヒーを飲みながら話をしていた。
「そんな時間はあるのか?」
仁は憔悴しきっていた。葵を心配するあまり、熟睡できていない。
「作ろうと思えば何とかなるけど?」
「いや、いい……」
葵がパリへ来て既に一週間。時間を見つけては行きそうな所を探してはみたが、全く会う事は出来なかった。
仁に何処からも連絡がないところを見ると、葵自身は無事でいるとみている。仁も仕事とパーティーに追われ、ホテルに帰ってくるのも深夜が多かった。
取引先のホームパーティーには、葵を同伴するつもりだったが、秘書の潤を伴うと、ホストからは、「かわいいと評判の奥様とお会いできなくて残念」と言われてしまっていた。
「お前、本当にこれからどうするんだ?」
コーヒーを口にし、仁の落ち込む様子をこの一週間見てきた潤は、自分のことの様に心配した。幼いころからのつきあいだ。仁の様子を見るだけで葵の事をどれほどに想っていたのか手に取るようにわかる。
「……はあ」
仁は顔を両手で覆い、ソファの背に寄りかかると天井を仰ぎ見る。
「お前が何故急に見合いをして、こんなに早く結婚したのかを聞いていなかったな。いい機会だ。聞かせてくれないか?」
「そうだな」
何か考えがあってそう決めたのだろう、後で聞かせてくれと潤は結婚を決めた時に仁にそう言っていた。仁はそのことを思い出し、重い口を開いた。
仁は、桃香と別れてから特定の女とは付き合いもなく、遊びの女も、もちろんいなかった。仕事に自分の時間を全て費やし、実績を上げていた。少し疲れ気味だった時に葵と会った。気遣いの出来る優しい女性だった。仁は一瞬で葵の雰囲気に癒された。この女の傍にいるだけでずっと穏やかに暮らせる、そう感じた。
「そうか……めぐり逢いはやっぱり縁なんだな。俺がどれだけ女と付き合ってもそんな女とまだめぐり逢ってないのにな」
仁は葵との経緯を潤に話をすると、更に落ち込んだ。潤の言う通り、葵は違うが仁にとっては手繰り寄せたように出会った女だったのだ。それを自らの軽率な行動で全てを台無しにしてしまったのだ。
「葵は多分……いや、家族の為に俺と結婚した。だから葵の気持ちが俺に向いてくれるまでは葵を抱かないと自分に言い聞かせてきたんだ。でも葵の様子を見ていると俺の事を思ってくれていると感じるようになっていた。だからこの機会にパリに誘ったんだ。誘った時の嬉しそうな葵の顔は忘れられない……なんてことをしてしまったんだ」
仁は自分の言葉で口から葵の事を話す度に、走馬灯の様に葵を思い出す。全て楽しそうな顔しか思い出せない。桃香とベッドにいたのを見た葵はどんな顔をしていたのだろう。きっとこれほどまでに見たこともない悲しい顔をしていたに違いない。
「それに、実際一緒に暮らし始めると、俺がどう接していいのか分からないのと、無心で尽くしてくれる葵に後ろめたさを感じてしまって、冷たい態度をしてしまっていた」
「本当に不器用だな、お前。俺に話したように葵ちゃんにも正直な気持ちを言えば良かったのに」
「本当だ。後の祭りか……」
「でも諦めるな。自分をさらけ出して葵ちゃんにぶつかれ、プライドも何もかも捨ててな」
「そうするよ」
仁は潤に話をすることで前向きな気持ちにもなれたが、パリの夜景を見ている横顔は不安で一杯であった。