Again
葵は、空港で仁に見つけられることもなく、日本に帰国した。



空港に着くと、葵は実家の母に電話をし、泣きそうになる自分を押えて、無事に着いた事、お土産は近いうちに届けに行くと要件だけを伝え、電話を切った。



久美にはメールで帰国を伝え、パリの出来事をどのように伝えたらいいのかと悩んだ。



葵のスマホは、仁と潤からの着信とメールで占められていた。びっくりするほどの量で心配を掛けてしまった、連絡くらいは入れておけばよかったか、と気になった。



仁は、仕事の予定を細かに伝え、会える時間なども伝えてきていた。



葵は一通り確認をすると全て削除して、静かにスマホの電源をオフにして溜息を付く。



空港を行かう人々は疲れた表情をしながらも、旅行を満喫した顔をしていた。葵は、自分はいったいどんな顔をしているのだろうと気になった。目の下にクマが出来ているわけでもないが、きっと疲れた顔をしているに違いない。



帰国して降り立った日本の空港は、出発する時のバラ色の景色はなくグレーに染まっているように葵の目に映った。



タクシーに乗り、マンションに帰る。ロータリーに着くと、一週間しか離れていないが懐かしい我が家が見えた。





「ありがとうございました」





運転手に礼をいい、タクシーを降りる。トランクから荷物を取り出すと、タイミング良くコンシェルジュがマンションに備え付けのカートを持って来た。





「お帰りなさいませ、名波さま」





声を掛けたのは、女性のコンシェルジュだ。三人いるコンシェルジュで唯一の女性だ。





「あ、ありがとうございます」

「お運びいたしますか?」

「いいえ、カートに乗せれば自分で持って行けます。玄関前にカートを置いておくので、それだけ下げていただいてもいいでしょうか?」

「承知いたしました」





カートに荷物をコンシェルジュと積み込み、エレベーターに乗り込む。最上階の自宅前に着くと、深いため息がついた。





「疲れた」





キーを開け、ドアを開けると、自宅の懐かしい匂いがする。なじめないと嘆いていた広すぎるマンションは、いつしか葵の一部になっていた。



ドアストッパーを掛け、玄関に荷物を入れる。全て降ろし、カートをエレベーター前に置くと、ドアを閉め、家の中に入った。



葵はリビングに行き、カーテンを開け、唯一窓が開く家事室に行くと、開けられる限界まで窓を開けた。

玄関とリビングを何度も往復しながら旅の荷物を広げる。トランクから汚れ物を取出し、洗濯機に入れ回す。全ての荷物をトランクから出すと、クローゼットにトランクを仕舞った。





「やっと一息つける」





やらなくてはいけない物を後回しにすると落ち着かないと、座ることもなく一気に片付けをした葵は、キッチンでコーヒーを淹れてテレビを点け、ソファに座った。その間だけは、全て忘れられた。

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