Again
「冷蔵庫に何も入っていなし、今日の晩御飯はどうしようかな」





リビングに広げたお土産をながめつつ、足を前に伸ばしだらりとする。



テレビに目を向け見ると、キャビネットに飾ってある結婚式の写真が目に入った。写真立ては銀細工のとても素晴らしいもので、仁の両親からの贈り物だ。



葵はマグカップをサイドテーブルに置き、立ち上がる。



キャビネットの扉を開け、写真立てを取ると、涙が頬を伝った。



葵はそのままキャビネットに戻すと、飾ってあったすべての結婚写真を伏せた。



手で涙を拭き、終わりのメロディが流れた洗濯機に洗濯物を取りに行く。



カゴに入れた洗濯物を取り出すと、期待に胸ふくらませたランジェリーがある。





「ほんと、バカみたい!!」





葵は初めて大きな声を出し、下着を投げつけた。そして大声で泣いた。



久しぶりの自分の家だったが、これからの事を考えると、囲われたこの家が、まるで葵を縛って離さない牢獄のようにも感じた。



ひとしきり泣くと、つかえていた物が流れたように気分はすっきりしていた。





「私って、神経が図太いのかな?」





泣いた効果はあったのか、くすっと笑いが出た。さらにお腹もすいてきた。





「仕方ない、買い物にでも行くか」





重い腰を上げ、財布を手に持つ。買い物用のエコバッグを持つと、外へ出た。



ストレスが買い物に繋がるのか、日頃は節約のために金額を決めて買い物をしているのだが、この日は、どんどんカゴに入れて行く。





「なんだか、気持ちいい」





惣菜、酒と目に付く物を全て入れて行く。店を出る時には、持って行ったエコバッグになど入るわけもなく、店の袋を両手に下げ、足取りも軽く歩き出す。



キッチンに買ってきた食材を広げると、葵は満足な顔をした。



楽しみにしていたフランスでの食事は、散々たるものだった。慣れない固いフランスパンに、バターを塗る。クロワッサンにはコーヒーだけ。観光に出ても、いつ仁に見つかってしまうかという、恐怖にも似たような気持から、ゆっくりとカフェでコーヒーなど、優雅な時間も過ごせなかった。



買い物をするのが精いっぱいで、滞在の一週間、パンしか食べていない。暫くは、パンを見たくない。まともな食事は機内食だという、なんとも悲惨な旅だった。



旅の疲れも感じない程、料理に没頭して、食卓に並んだ時は、ホームパーティーが出来るほどの量になっていた。





「いただきます」





まずは、温かな味噌汁を飲み、歓喜の声を上げる。





「あ~たまらん」





それからは、一心不乱にご飯を食べに食べまくった。





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