Again
「全然眠れなかった」
昨夜、仁が部屋に入って葵の頭を撫でた。葵は寝た振りをしていただけで起きていた。とめどもなく溢れる涙を止める事はできなかった。喉が痛くなる泣き方があるのだと初めて知った。
今朝も、目覚ましより早く目が覚めた。というより、眠れなかったと表現したほうがいいだろう。
いつまでも避けてはいられない。話を聞かなくてはいけないことは分かっている。早く支度をして出勤してしまえば、仁と会わずに済むけれど、それはやめることにする。
部屋着に着替え、部屋を出る。しんとした部屋で仁を起こさないように足音をたてないようにキッチンまで歩く。
そのままランドリーに行き、洗濯物の選別をして洗濯機を回す。
キッチンに再び戻ると、冷蔵庫にかけてあるエプロンを着けた。
和食がいいかパンでいいか悩んだが、疲れて朝食は食べないかもしれないと、パンの朝食にする。ハムエッグとサラダとフルーツの簡単な朝食を作ったが、仁はまだ起きてこない。帰国後の出勤だからゆっくり行くのかもしれない。
少しホッとした表情で、葵は一人カウンターで朝食を食べる。
「そうだ、コーヒーを淹れるの忘れた」
カウンターを回りこみ、コーヒーの準備を始めると、
「俺が淹れよう」
葵は背後からの急な声にびっくりして肩をすくめた。
その声は仁だ。他にこの家に男はいないのだから当たり前だ。
「お、おはようございます。あの……」
「座ってて」
葵は仁の言葉に素直に従う。仁は起きてから直ぐにキッチンへきたのかパジャマ姿だった。
コーヒーのこぽこぽと落ちる音だけが響く。仁もコーヒーメーカーをじっと見ているだけ、葵は、座って手持無沙汰で手いたずらをしている指をじっと見ているだけだった。
コトンと葵の前にマグカップが置かれて、顔を上げる。
「ありがとうございます」
仁は何も言わずに、葵の隣に用意されていた朝食の前に座った。
「いただきます」
食事の時は避けようと思っているのか、二人ともパリのことは話さず、無言で食事をする。結婚したばかりの食事風景に戻っていた。ただ違うのは、初めての結婚生活で、何を話したらいいか模索している無言と、二人の間に気まずい雰囲気が漂う無言と言うことだ。
朝食を取り終わると、仁が最初に話をした。
「葵」
「は、はい」
急な語り掛けに、俯いていた顔をぱっと上げる。仁の表情は少し怯えているように見える。
「今日は?」
「あの、いつも通りの時間に帰ってきます」
「ちゃんと話がしたいんだ。俺は帰国の報告だけをしたら仕事はない。ホテルに迎えに行くから待っていて」
「……はい」
とうとう向き合う時がきた。避けては通れない道だ。気まずい雰囲気が漂う中、救世主の洗濯が終わったことを知らせるメロディが流れた。
「あ、洗濯……」
葵はキッチンを周り、洗濯物を取りに行く。仁は、二人の食事の後片付けを始めた。
カゴに洗濯ものを入れて抱えてきた葵は、その姿を見て、
「私がやるのでそのままにしておいて下さい」
仁の後ろを通りすぎる時に声をかける。そのままパタパタと家事室に行き、洗濯物を干し始めた。
「もう一回洗濯機を回したいけど、時間がなくなっちゃうなあ。帰ってからにしよう」
空になったカゴを持ってランドリーに戻るとき、キッチンは綺麗に食器が洗われていた。
お互いギクシャクしたままで支度を済ませると、今日は葵が先に家を出た。やはり仁はゆっくりと出勤するらしく、出勤の支度をしていなかった。
「いってきます」
「……いってらっしゃい。夕方、迎えに行くから」
返事をしないまま頷くと、葵は家を出て仕事に向かった。
昨夜、仁が部屋に入って葵の頭を撫でた。葵は寝た振りをしていただけで起きていた。とめどもなく溢れる涙を止める事はできなかった。喉が痛くなる泣き方があるのだと初めて知った。
今朝も、目覚ましより早く目が覚めた。というより、眠れなかったと表現したほうがいいだろう。
いつまでも避けてはいられない。話を聞かなくてはいけないことは分かっている。早く支度をして出勤してしまえば、仁と会わずに済むけれど、それはやめることにする。
部屋着に着替え、部屋を出る。しんとした部屋で仁を起こさないように足音をたてないようにキッチンまで歩く。
そのままランドリーに行き、洗濯物の選別をして洗濯機を回す。
キッチンに再び戻ると、冷蔵庫にかけてあるエプロンを着けた。
和食がいいかパンでいいか悩んだが、疲れて朝食は食べないかもしれないと、パンの朝食にする。ハムエッグとサラダとフルーツの簡単な朝食を作ったが、仁はまだ起きてこない。帰国後の出勤だからゆっくり行くのかもしれない。
少しホッとした表情で、葵は一人カウンターで朝食を食べる。
「そうだ、コーヒーを淹れるの忘れた」
カウンターを回りこみ、コーヒーの準備を始めると、
「俺が淹れよう」
葵は背後からの急な声にびっくりして肩をすくめた。
その声は仁だ。他にこの家に男はいないのだから当たり前だ。
「お、おはようございます。あの……」
「座ってて」
葵は仁の言葉に素直に従う。仁は起きてから直ぐにキッチンへきたのかパジャマ姿だった。
コーヒーのこぽこぽと落ちる音だけが響く。仁もコーヒーメーカーをじっと見ているだけ、葵は、座って手持無沙汰で手いたずらをしている指をじっと見ているだけだった。
コトンと葵の前にマグカップが置かれて、顔を上げる。
「ありがとうございます」
仁は何も言わずに、葵の隣に用意されていた朝食の前に座った。
「いただきます」
食事の時は避けようと思っているのか、二人ともパリのことは話さず、無言で食事をする。結婚したばかりの食事風景に戻っていた。ただ違うのは、初めての結婚生活で、何を話したらいいか模索している無言と、二人の間に気まずい雰囲気が漂う無言と言うことだ。
朝食を取り終わると、仁が最初に話をした。
「葵」
「は、はい」
急な語り掛けに、俯いていた顔をぱっと上げる。仁の表情は少し怯えているように見える。
「今日は?」
「あの、いつも通りの時間に帰ってきます」
「ちゃんと話がしたいんだ。俺は帰国の報告だけをしたら仕事はない。ホテルに迎えに行くから待っていて」
「……はい」
とうとう向き合う時がきた。避けては通れない道だ。気まずい雰囲気が漂う中、救世主の洗濯が終わったことを知らせるメロディが流れた。
「あ、洗濯……」
葵はキッチンを周り、洗濯物を取りに行く。仁は、二人の食事の後片付けを始めた。
カゴに洗濯ものを入れて抱えてきた葵は、その姿を見て、
「私がやるのでそのままにしておいて下さい」
仁の後ろを通りすぎる時に声をかける。そのままパタパタと家事室に行き、洗濯物を干し始めた。
「もう一回洗濯機を回したいけど、時間がなくなっちゃうなあ。帰ってからにしよう」
空になったカゴを持ってランドリーに戻るとき、キッチンは綺麗に食器が洗われていた。
お互いギクシャクしたままで支度を済ませると、今日は葵が先に家を出た。やはり仁はゆっくりと出勤するらしく、出勤の支度をしていなかった。
「いってきます」
「……いってらっしゃい。夕方、迎えに行くから」
返事をしないまま頷くと、葵は家を出て仕事に向かった。