Again
翌日、昼食を仁の両親と取るという事で、朝食後に、簡単に掃除と洗濯を済ませ、支度をする。その間も仁はいつもの通りに、テレビの前のソファに座り、テレビを観ながら新聞を読んでいた。





「お待たせしました。支度ができました」

「ああ、じゃ、行こうか」





仁は、新聞を閉じる。





「お土産は持ちましたけれど、何か買って行った方がいいでしょうか?」

「……お土産を買って来てくれていたんだな。ありがとう」

「……パリもよく知ってらっしゃるでしょうか? お土産は悩んでしまって、大丈夫でしょうか?」

「気を遣わせてしまったね……悪かった」





パリに行くことを仁の両親は知っている。何も買わないで帰るわけにはいかないだろうと、気になっていた。趣味や趣向も知らないことだし、ある程度のブランド品は持ち合わせているだろう。



お土産物を悩み、どれくらいパリの街をうろうろとしただろう。仁に会わないか、潤にも合わないかとハラハラしながらの買い物だった。



悩んだあげく、葵は形に残る物ではなく、消費をしてしまう食品にした。悩み過ぎて分からなくなってしまったので、ガイドブックに載っていた一番の売れ筋商品のジャムとチョコレート、紅茶をチョイスした。



用意をしたお土産を仁が持ち、空いた手は葵の手を繋ぐ。絶対に離さないと態度で示す。



今、問題がある二人が何も知らない仁の両親の所に向かう。仁は何を考え、何を思うのだろうと葵は考えていた。



そんなに離れていない所に仁の両親が住むマンションがある。ここも、名波商事不動産の持ち物だ。来客用の駐車場に車をいれ、車を止めた。



二人並んでマンションのエントランスへ向かう。インターフォンを押すと、母親の理恵が直ぐに応対に出た。ドアが開かれ、エレベーターにと向かう。葵は仁に悟られないように小さく深呼吸をした。



話題はパリのことだけになるだろう。葵は車で来しなに何度も頭でシナリオを組み立てた。こう聞かれたらこう答える。大体の予測がつく質問に対しては応えられるようにしておいたつもりだ。



車の中では、いつも通り会話もなかった。運転している仁は葵が気になり、横顔を見つめた。何を思い、何を考えているのか。責めもしなければ、問いただすこともしない。自分に気持ちを向けられていないことが、全てなのか。自分が葵に向かっていきさえすればいい。それだけのことが出来ないでいた。

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