Again
二人は努力をしていたが、溝がなかなか埋まらないまま、葵は仕事が忙しくなっていた。パッとしない企画ばかりを立てていた広報課が激をとばされ、広報課一丸となりアイデアを出していたのだ。
企画会議があり、会議室を広報課の面々が出て行く。会議に参加した中で一番の下っ端である葵と久美は、会議室の片付けと掃除をしていた。
「いやあ、今回の企画はすごいね。企画を通した課長も凄いけど、快諾した方もすごいね」
「ホント、私達が担当だって。緊張しちゃうね」
「ダメだと思わずに、依頼してみるものね」
最近は、イベントを企画するも、集客が見込めず、チケットは売れ残ったり、ライバルホテルに企画を先こされてしまったりと散々だった。
ホテルの名がある。その名に恥じぬような企画を立てなければいけない。葵も久美も頭を使い、アイデアを捻り出していた。ここはひとつ、思い切った企画を立てようじゃないかという事になり、女性誌を読みあさった。何でもいいからと、女子会に参加をしたりして情報収集に励んでいた。そこで白羽の矢があたったのがモデルの桃香であった。現在はライフプランクリエーターとして名前を売り、その私生活が注目されていた。取り上げられていない女性誌はほとんどなく、めくるページの何処かに必ず、桃香が写っていた。それを久美と雑談で話していたところ、課長がダメでもともと、と、企画をしたのだった。
葵はそのため残業も多く、仁とはすれ違いが多かった。仁は、葵との距離を縮める努力をしているようで、葵が残業の時は時間の許す限り、自分の運転で迎えに来たりしていた。
「今、私達世代で大人気のモデル桃香の、ファッションショーとトークショー、それに、立食パーティーも付いて、直に桃香に質問ができるんだよ? しかもホテル一番人気のラウンジのあのフルーツロールケーキのお土産付き。私も参加したいくらいよ」
「桃香も事務所も快諾したんでしょ? 何がよかったのかしら」
「桃香はデザインの勉強でパリに行っているらしいの。近く、ブランドを立ち上げたりするから、桃香側もいい宣伝になると目論見があるんじゃないかな?」
「パリ……」
葵は、この言葉に引っかかるものがあった。しかし、パリの最悪の出来事の張本人が桃香であることは全く気が付かないでいた。
「粗相がないように、準備と気配りをしっかりしないとね」
「うん、がんばろう。これが、成功したら課長から美味しいご褒美があるらしいから」
「そうそう、あの焼肉屋さんでしょ? 有名な。うふふ、楽しみ」
久美は肩をすくめ喜ぶ。
椅子を直して、ゴミを集め、テーブルの上を拭くと、葵と久美は足取りも軽く、会議室を出た。
広報課に戻ると、桃香の事務所から、本人の要望と企画がファックスで送られてきていた。
「ふーん、流石、桃香ね。滞在について細かい要望があるわね」
久美と二人ファックスの内容を読む。
「スイートルームに毎朝飲むお水、え、水も時間帯で区別。硬水、軟水? それから、フルーツと加湿器を二台ね」
「まあ、これくらいは海外セレブに比べたら、可愛い物よね、葵」
「そうね、海外のお客様はもっとすごいこと要求してくるもんね。控えめな日本人でよろしい」
「私達ができる最高のおもてなしをしようじゃないですか」
久美は制服のブラウスを腕まくりして、ファイティングポーズを取る。
この日から、葵と久美は桃香係りとして、出来る限りのおもてなしをと、打ち合わせに余念がなかった。
企画会議があり、会議室を広報課の面々が出て行く。会議に参加した中で一番の下っ端である葵と久美は、会議室の片付けと掃除をしていた。
「いやあ、今回の企画はすごいね。企画を通した課長も凄いけど、快諾した方もすごいね」
「ホント、私達が担当だって。緊張しちゃうね」
「ダメだと思わずに、依頼してみるものね」
最近は、イベントを企画するも、集客が見込めず、チケットは売れ残ったり、ライバルホテルに企画を先こされてしまったりと散々だった。
ホテルの名がある。その名に恥じぬような企画を立てなければいけない。葵も久美も頭を使い、アイデアを捻り出していた。ここはひとつ、思い切った企画を立てようじゃないかという事になり、女性誌を読みあさった。何でもいいからと、女子会に参加をしたりして情報収集に励んでいた。そこで白羽の矢があたったのがモデルの桃香であった。現在はライフプランクリエーターとして名前を売り、その私生活が注目されていた。取り上げられていない女性誌はほとんどなく、めくるページの何処かに必ず、桃香が写っていた。それを久美と雑談で話していたところ、課長がダメでもともと、と、企画をしたのだった。
葵はそのため残業も多く、仁とはすれ違いが多かった。仁は、葵との距離を縮める努力をしているようで、葵が残業の時は時間の許す限り、自分の運転で迎えに来たりしていた。
「今、私達世代で大人気のモデル桃香の、ファッションショーとトークショー、それに、立食パーティーも付いて、直に桃香に質問ができるんだよ? しかもホテル一番人気のラウンジのあのフルーツロールケーキのお土産付き。私も参加したいくらいよ」
「桃香も事務所も快諾したんでしょ? 何がよかったのかしら」
「桃香はデザインの勉強でパリに行っているらしいの。近く、ブランドを立ち上げたりするから、桃香側もいい宣伝になると目論見があるんじゃないかな?」
「パリ……」
葵は、この言葉に引っかかるものがあった。しかし、パリの最悪の出来事の張本人が桃香であることは全く気が付かないでいた。
「粗相がないように、準備と気配りをしっかりしないとね」
「うん、がんばろう。これが、成功したら課長から美味しいご褒美があるらしいから」
「そうそう、あの焼肉屋さんでしょ? 有名な。うふふ、楽しみ」
久美は肩をすくめ喜ぶ。
椅子を直して、ゴミを集め、テーブルの上を拭くと、葵と久美は足取りも軽く、会議室を出た。
広報課に戻ると、桃香の事務所から、本人の要望と企画がファックスで送られてきていた。
「ふーん、流石、桃香ね。滞在について細かい要望があるわね」
久美と二人ファックスの内容を読む。
「スイートルームに毎朝飲むお水、え、水も時間帯で区別。硬水、軟水? それから、フルーツと加湿器を二台ね」
「まあ、これくらいは海外セレブに比べたら、可愛い物よね、葵」
「そうね、海外のお客様はもっとすごいこと要求してくるもんね。控えめな日本人でよろしい」
「私達ができる最高のおもてなしをしようじゃないですか」
久美は制服のブラウスを腕まくりして、ファイティングポーズを取る。
この日から、葵と久美は桃香係りとして、出来る限りのおもてなしをと、打ち合わせに余念がなかった。