Again
イベント前日。桃香が夕方にチャックインをした。葵と久美は担当として、フロントに出迎える。周りにいた宿泊客も桃香の存在に気が付き、遠巻きに写メをとっていた。さすがの存在感に二人は圧倒される。



サングラスをかけ、大きくカールした髪は無造作に頭上へ束ねていたが、後れ毛も計算されている感じだった。膝上のワンピースはサーモンピンクで肌に溶け込む色合いがとてもいい。無造作に肩かけたカーディガンが素敵だ。





「同じ女とは思えないスタイルの良さね。羨ましい」





久美は葵にこそっと耳打ちをした。





「ほんとうにね。羨ましいし、オーラが凄くない?」





久美は、うん、うんと大きく頷く。

イベントが滞りなく進むように、今日は最終確認のため二人は泊まり込むことになっていた。





「ようこそプレシャスホテルへお越しくださいました」





支配人が挨拶をする。





「こちらこそ」





桃香は、にっこりと微笑む。





「この二人が桃香さまを担当いたします。広報課の田中 久美と名波 葵です」





二人をそれぞれ紹介する。





「名波?……葵?」

「ご存じですか?」





小声で葵の名前をつぶやいたつもりだが、隣にいた支配人には聞こえてしまったようだ。





「あ、いえ……田中さんに、名波さんね。よろしくお願いするわ」





差し出された手に久美から握手をする。次に葵が握手をしたときは、サングラス越しで目の表情を見ることができなかったが、じっと見られているような気がした。





「お部屋に案内をして差し上げて」

「はい」





フロントでの簡単な挨拶を終えて、支配人の指示通り、桃香を宿泊するスイートルームに案内する。マネージャーらしき人は見当たらず、桃香は一人でチェックインをした。



カードキーで部屋を開け、ドアを開ける。カードキーを桃香に手渡すと、二人で横にもう一度並ぶ。

桃香は、部屋を点検するように見て回る。ホテルの評価が問われると、緊張を隠せない。





「ありがとう、素敵なお部屋を用意してくれて。私はマネージャーをつけるのが嫌いなの。仕事のスケジュールだけ管理をしてもらって、現場には付いてはこないの。だから、明日のイベントはお二人が頼りよ? お願いしますね。いいイベントにしましょう」





桃香は、部屋を気に入ったようで、サングラスを取りながら言った。





「畏まりました。それでは、早速ですが明日の最終確認をしたいと思います、よろしいでしょうか?」





葵はバインダーを開き、ペンを取る。





「ええ、構わないわ。そこに座って頂戴」

「失礼いたします」





桃香と向い合せになる形で、葵と久美はソファに腰を降ろす。





「本日、夜8時にエステとマッサージ。それと並行してネイル。お食事はルームサービスで有機野菜のサラダ、豆乳のスープ、フルーツ……そのように承っておりますが他にご用命はございませんか?」





バインダーに記してある桃香からの要望書を読み上げる。





「ええ、それで結構です。あ、サラダは温野菜にして頂ける? ドレッシングはノンオイルで。それと」

「畏まりました」

「明日のイベント当日ですが、メイクはご自分で。ヘアのみ当ホテルのサロンでスタイリングをなさるという事で、スタッフを2名担当にさせていただきました」





ノートに書き込みをしている葵の横で久美が言う。





「ありがとう」

「以上が最終確認です。至らぬこともあると思いますが、どうぞ、ご遠慮なく御用をお申し付けくださいませ」





葵は、労う言葉に感激をして、久美と二人、深々とお辞儀をした。

二人は、挨拶を済ませ、部屋を後にした。

ドアを閉まると、





「あの子が仁の……葵ちゃんね」





何かを企んでいるような、そうでもないような表情の読み切れない桃香がつぶやいた。





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