Again
「葵ちゃん? これは言わないでおこうと思ったの。でも、あまりにも気の毒だから教えてあげるわ」





桃香は腕組みをして葵を品定めするように下から上へと視線を向けた。短時間で桃香は豹変した。嫌味なまでの女になる。





「え?」

「仁はね、私との仲がマスコミにばれると今はお互いに不味いから、カモフラージュであたなと結婚をしたのよ? 雑誌とかで見たことない? 私と仁。仁もあの容姿でしょう? 御曹司と呼ばれる分類でもずば抜けて容姿がいい。いつでもマスコミは狙っているの。仁も不器用そうでうまくやってるのね。意外だったわ。うまくやれるか心配していたのに。あなたの話しを聞く限りでは……ね」





身長も高い桃香から見下ろされる形になっている葵は、桃香に問い詰められているように見える。桃香の言うことに耳を疑う。





「カモフラージュ……って」

「あなたが仁に深入りして、傷つく前に終止符を打つつもりだったの。計算外だったわ。仁があなたに後ろめたくて優しくしてしまったのが、仇になったのね。あなた、仁が好きでしょ?」

「……」

「あと腐れない女を探して、結婚したはずなのに。それに、惚れさすなと釘を刺したのに……だめねえ、仁は自分のことを好きにさせるのが好きなんだから、悪趣味よね?」

「し、失礼、します」





葵はどうにかお辞儀をして部屋をでることが出来た。涙は全く出ず、頭の中が「カモフラージュ」という言葉のみがこだましている。



広報課には戻らず、非常階段のドアを開ける。静かに階段に腰を降ろすと、つぶやいた。





「カモフラージュかあ、そうか……そうよね」





突然の見合い。それも家柄も身分も違う世界の人。何か訳がないわけではなかった。そんなことも考えつかなかった自分が情けなかった。借金返済という都合のいいことを考え結婚した自分がいけないのだ。





「借金が楽になると考えた罰ね」





スカートのお尻に着いた埃を払い、葵はランドリーに向かう。

ランドリーでドレスを受け渡し、久美の顔を見たら泣き出してしまうかもしれない自分に、「泣かない、大丈夫」と言い聞かせ、職場へ向かった。



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