Again
イベント当日、スタッフがインカムをつけ、会場の整備にあたる。指示を出すのは葵と久美だ。
久美は部屋から桃香を会場までを案内し、葵は会場に入ってくる客の整備にあたっていた。
参加者は皆、桃香信者で、髪型からファッションまで桃香を真似している。後ろ姿は、誰も同じに見えるのは、自分だけだろうかと、呑気に思いながら、葵はイベント会場をまとめていた。
葵は、昨日あんなことがあってから、仕事が出来るのかと精神的に不安であった。しかし、朝、鏡を見て「私はプロ」と言い聞かせた。広報課に戻ってきた葵を見て、顔が蒼かったらしく、しきりにどうしたのかと聞かれ、桃香が部屋で使っていたアロマにやられた、と答えた。
『桃香さま、会場入りします』
インカムから久美の声が聞こえる。
「了解」
会場にいる葵は、スタッフ二人を扉の前にスタンバイさせ、照明を落とさせた。
落ちた灯りと共に、会場にいるお客が一斉に騒ぎ出した。
ドアが開きライトが桃香を照らし出す。
体のラインがはっきりと分かるシルバーのドレスに身を包んだ桃香が登場した。流石のスタイルに会場もどよめく。ドレスには、ふんだんにスパンコールが縫い付けられており、ライトが当たると、桃香自身がミラーボールのように輝いた。全て計算しつくされた演出だ。
「仁さんには、桃香さんがぴったりね。隣にいるのは私じゃない。ハッキリとわかったわ」
葵はそうつぶやいた。
イベントは、予定時間を大幅に超えて大盛況であった。桃香もブランドを立ち上げるので必死なのか、終始にこやかに対応していた。マネージャーがいないと、自由にできていいのかもしれない。
参加者が帰った後、スタッフに桃香は労いの言葉をかけた。
「このイベントを企画して下さった広報課の皆様。本日のイベントの整備をしてくださったホテルのスタッフ、皆さまの力添えがあったからこそ、初めてのイベントを成功させられたと思います。本当にありがとうございました」
丁寧にお辞儀をする姿は、昨日の葵に対する敵意がむき出しだった同一人物とは思えない。
女優も出来るのではないか。そんなことを葵は思った。
久美が桃香を部屋まで誘導し、葵は会場の後片付けを始めた。体を使っていると、余計なことを考えずに済む。ただひたすらに、椅子を運び、テーブルを持ったり、クロスをクリーニングに出したりと、体を動かした。
「葵、お疲れ様。どうする? このあと打ち上げする?」
「久美、お疲れ様。そうだね、打ち上げしよう」
「旦那さんは大丈夫?」
「平気」
昨日の泊りと、今日のイベントで、二人は早く帰宅することが出来る。まだ日も暮れていない時刻から飲むのも悪くはない。少し前なら仁を気にして断っていただろうが、今の葵の中は、仁の占める割合が半分以下になっていた。
「桃香さまは? 何か、御用は?」
何か用事があればそれを先に済ませようと、葵は部屋まで案内した久美に聞いた。
「イベントは終わったし、これからご友人とお会いになるそうよ。だから、もう用はないって」
「そう」
ご友人という言葉に葵は反応した。もしかしたら仁なのかも知れないと。一瞬、意地悪く自分と桃香のどちらを取るのか、電話をして食事でも誘ってみようかと考えたが、浅はかだと思い直した。
制服から私服に着替え、ロッカー室をでる。早い時間だからまだ、居酒屋もバーも開店前だ。
「普通に食事をして飲むしかないわね」
ホテルを出て歩きながら葵と久美は飲み場所を相談する。
話し合いの結果、駅ビルのオイスターバーに決まった。
葵は飲んで、忘れられるだろうか、それとも、泣き出してしまわないかと、自分のことでも分からず、不安げだった。いっそのこと、この胸のつかえを久美に話すことが出来なならばどんなに楽になるだろうかと。
しかし葵の思いとは逆に、食欲もなく、酒も入っていかない。心配する久美に、気が抜けたからだと、苦しい言い訳をしていた。
久美は部屋から桃香を会場までを案内し、葵は会場に入ってくる客の整備にあたっていた。
参加者は皆、桃香信者で、髪型からファッションまで桃香を真似している。後ろ姿は、誰も同じに見えるのは、自分だけだろうかと、呑気に思いながら、葵はイベント会場をまとめていた。
葵は、昨日あんなことがあってから、仕事が出来るのかと精神的に不安であった。しかし、朝、鏡を見て「私はプロ」と言い聞かせた。広報課に戻ってきた葵を見て、顔が蒼かったらしく、しきりにどうしたのかと聞かれ、桃香が部屋で使っていたアロマにやられた、と答えた。
『桃香さま、会場入りします』
インカムから久美の声が聞こえる。
「了解」
会場にいる葵は、スタッフ二人を扉の前にスタンバイさせ、照明を落とさせた。
落ちた灯りと共に、会場にいるお客が一斉に騒ぎ出した。
ドアが開きライトが桃香を照らし出す。
体のラインがはっきりと分かるシルバーのドレスに身を包んだ桃香が登場した。流石のスタイルに会場もどよめく。ドレスには、ふんだんにスパンコールが縫い付けられており、ライトが当たると、桃香自身がミラーボールのように輝いた。全て計算しつくされた演出だ。
「仁さんには、桃香さんがぴったりね。隣にいるのは私じゃない。ハッキリとわかったわ」
葵はそうつぶやいた。
イベントは、予定時間を大幅に超えて大盛況であった。桃香もブランドを立ち上げるので必死なのか、終始にこやかに対応していた。マネージャーがいないと、自由にできていいのかもしれない。
参加者が帰った後、スタッフに桃香は労いの言葉をかけた。
「このイベントを企画して下さった広報課の皆様。本日のイベントの整備をしてくださったホテルのスタッフ、皆さまの力添えがあったからこそ、初めてのイベントを成功させられたと思います。本当にありがとうございました」
丁寧にお辞儀をする姿は、昨日の葵に対する敵意がむき出しだった同一人物とは思えない。
女優も出来るのではないか。そんなことを葵は思った。
久美が桃香を部屋まで誘導し、葵は会場の後片付けを始めた。体を使っていると、余計なことを考えずに済む。ただひたすらに、椅子を運び、テーブルを持ったり、クロスをクリーニングに出したりと、体を動かした。
「葵、お疲れ様。どうする? このあと打ち上げする?」
「久美、お疲れ様。そうだね、打ち上げしよう」
「旦那さんは大丈夫?」
「平気」
昨日の泊りと、今日のイベントで、二人は早く帰宅することが出来る。まだ日も暮れていない時刻から飲むのも悪くはない。少し前なら仁を気にして断っていただろうが、今の葵の中は、仁の占める割合が半分以下になっていた。
「桃香さまは? 何か、御用は?」
何か用事があればそれを先に済ませようと、葵は部屋まで案内した久美に聞いた。
「イベントは終わったし、これからご友人とお会いになるそうよ。だから、もう用はないって」
「そう」
ご友人という言葉に葵は反応した。もしかしたら仁なのかも知れないと。一瞬、意地悪く自分と桃香のどちらを取るのか、電話をして食事でも誘ってみようかと考えたが、浅はかだと思い直した。
制服から私服に着替え、ロッカー室をでる。早い時間だからまだ、居酒屋もバーも開店前だ。
「普通に食事をして飲むしかないわね」
ホテルを出て歩きながら葵と久美は飲み場所を相談する。
話し合いの結果、駅ビルのオイスターバーに決まった。
葵は飲んで、忘れられるだろうか、それとも、泣き出してしまわないかと、自分のことでも分からず、不安げだった。いっそのこと、この胸のつかえを久美に話すことが出来なならばどんなに楽になるだろうかと。
しかし葵の思いとは逆に、食欲もなく、酒も入っていかない。心配する久美に、気が抜けたからだと、苦しい言い訳をしていた。