Again
書斎で仁は潤に電話をかけていた。





「潤か? すまないが、桃香のスケジュールを調べてくれないか?」

『桃香がどうかしたのか?』

「ああ、最悪だ。桃香が葵に接触をしたらしい。そこでまたあることない事を葵に吹き込んだんだ」

『何を言ったんだ?』

「俺と桃香の付き合いを隠す為にカモフラージュで結婚をしたと……」

『な、なんでまたそんなことを』

「あんな葵にしてしまったのは俺だ。手が付けられないほど興奮して、全く話にならないんだ」

『それは当たり前だろう……』

「俺は……俺には葵が必要なんだ……」





髪をぐしゃりと掴み、項垂れる。





『お前は相変わらず不器用だな。素直にそう言えば、こんなことにならずに済んだのに。ばか者』

「本当だな」

『桃香の件は調べておく。お前は葵ちゃんをどうにかしろよ』

「わかった。よろしく頼む」





書斎のチェアにもたれ、くるりと椅子を回転させる。窓から見える景色が今日は曇っている。

葵との関係が一気に崩れ落ちていく。腕の中から大切な何かが去って行くのがわかった。





「なんでこんなことになったんだ……」





肘掛に手を付き、頭を押さえる。起きてしまったことは取り返しがつかない。潤からの返答を待って桃香に問いたださなくてはならない。もう二人きりでは合わない。潤と一緒に会って話をしよう。これ以上事を複雑にしたら修復できなくなる。仁は危機感に怯えていた。



葵の言った言葉が離れない。泣きじゃくった顔が忘れられない。



葵のことは気になりながらも、山積みの仕事を処理していた。潤に電話をして一時間くらいたったころ、電話がかかってきた。





「俺だ」

『分かったぞ、桃香はプレシャスホテルで、イベントをしたらしい。明日の午前にチェックアウトをして、自宅マンションに一度戻るらしいが、直ぐにパリに発つようだ』

「桃香は知っていたのか?」

『いや、それは本人に聞いてみなくちゃわからないが、偶然だったんじゃないか? ホテルの企画なんだし』

「そうだな」

『どうするつもりだ』

「どうればいい?」

『ばかもの』





捨て台詞で潤に電話を切られた。こういうことに関して仁はとても不器用だ。普段は戦略を立て、危ない橋も渡ってきたはずなのに、全くいい案が浮かばない。行動に移してしまえば、また厄介なことになってしまうのではと臆病になる。





「はあ~」





仕事は山積み、葵のことはもっと気になる。真剣に悩み、考えこんでいて家の変化にまるで気が付かなかった。



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